戸惑うエステルをよそに、前を進む彼は複雑な道を迷うことなく進んでいく。その後姿を見ながら、進み方が父であるカシウスに似て音を立てず、しかし迷いのない足取りだというのに気がついた。
(こんな人が父さんのほかにいるなんて。)
本音を言うと、エステルは父以上に強い人間なんて見たことがなかったし、そんな人はいなんと思っていた。正遊撃士になるためにリベール各地を周ったエステルは遊撃士の雰囲気でその強さを肌で感じるようにすらなった。しかし自分の前を歩いている青年は、もしかしたら父くらいの強さかもしれない。
(こんなに強い人が付き添いなんて、この仕事・・・)
シェラザードがあそこまで口うるさくいうのも頷けるような気がしてきた。
「あ、あのー・・・。」
「何だ。」
「レオンハルトは、えーっと・・・遊撃士協会から言われて私の付き添いをしているんだよね?」
「あぁ、そうなるな・・・気になるのか?」
「へ?!あ、いや・・・レオンハルトさんは相当な腕前だと思っ、思いましたので、そんなに難しい依頼なのかなーっと」
日ごろ、リベールでもそんなに敬語を使うわけではないので(主にエステルが)たどたどしい会話になってしまったが、相手はそれを気にしてはいないようだった。
「・・・今回の依頼の村、ハーメルというのは知ってるな?
そこは俺の出身の村だ。そういうのも配慮されて俺が付き添いになったんだろう。」
振り返ってエステルに目を合わせた彼の目は強い光を放っていた。敵として向かい合ったら正直、まともに立っていられるのか不安になる。
(今回は本当に味方でよかった・・・)
視線が外され、ほっと胸をなでおろしレオンハルトの後ろを歩く。そこではっと気がついた。彼は微々たる違いではあるが、エステルの歩く速度に合わせてくれていた。少しエステルが遅れたら速度を緩め、付いて来れるようだったら速度を少し速める。
(凄い、なぁ・・・。)
さすが帝国1,2を争う遊撃士といわれるだけある、とエステルは自分の未熟さを改めて考えさせられていた。
「ここだ。」
ほんの10分ほどでついたそこは、周りの建物に負けず劣らず素晴らしいつくりだった。
「すごい歴史を感じさせる建物ね・・・」
「・・・入るぞ。」
木製にしては年代物の扉の奥は、外装に負けず劣らず頑丈そうなつくりだった。帝国の様式はどれも絢爛豪華、荘厳なイメージだったのだが、遊撃士協会はまたそれとは違った趣だった。荘厳、かつその一つ一つに歴史を感じさせ、非常に重厚な内装。派手ではなく、質素でもない。まさに帝国そのもののようにすら感じる。ぺたぺたと壁を触ってみる。石だから当たり前だが、冷たい。
「重そう…」
「重そう、か。」
微妙に笑われているのは気のせいではないのだろう。だって重そうじゃない、ほとんど石だし、色使いもどちらかと言うと黒とか赤とか・・・。
「まぁ・・・重そうではあるな。何から何まで帝国式だからな。
ヴェルヴェッタ、いるか?」
「・・・その声は、レーヴェ、ね?」
奥から姿を見せたのは、25歳くらいの女性だった。ワイン色のドレスは、胸元は見えず首まで隠れているがスカート部分は腰からスリットが入っており、色気を漂わせている。髪は黒で、その瞳は閉じられたままだ。
「エステルさんは、ああ、横にいるのね。こんにちは、道に迷われたんじゃなくて?私が迎えにいけたら良かったのだけど。」
あいにくこの目でね、と困ったように目元に手を置くしぐさで、この女性の状態がわかってしまう。
「あの、」
「自己紹介が まだだったわね。私は ヴェルヴェッタ、よ。エレボニアの遊撃士協会を任されている、わ。」
よろしく ね、と差し出された手をそっと握り返すと、ヴェルヴェッタはエステルの手をやさしく握り返した。
「お父さんとは何度かお会いしているけ、ど、あなた の話もよく聞いていたの。もう少し話をしていたいけど、時間もおしているから、すぐに依頼主の ところまで行ってほしい のだけ ど…。」
依頼主。そうだった。遊撃士協会からエステルに届いた依頼状には、依頼主についての情報が全くかかれていなかったのだ。そこはシェラザードが心配した点でもあった。
「あの依頼してくださった方って―――」
「それは今から行く場所にいる わ。ごめん なさい、私もそれ を 口に出して伝えることはできない の。」
ヴェルヴェッタがエステルに差し出した上等な手紙、それを見るかぎりでエステルだって判る。
(この依頼をしてきた相手って、もしかして―――)
「帝国の要人、ということか」
横で二人を眺めていた彼がエステルの考えていたことを口に出した。
なぜ帝国の要人が新米の遊撃士なんかに?その疑問が急激に膨らんでいくのが判る。
「もしかして怖気づいたのか?」
「…っ!そんなことない…です。とにかくこの場所に行ってみます。
あの、ヴェルヴェッタさん、ありがとうございました!」
身体にお気をつけて!と走って出て行くエステルを見、彼はヴェルヴェッタに視線を合わせた。
「じゃあ、しばらく留守にする。後は頼んだ。」
「判った、わ。久しぶりの里帰り なんで しょ?ゆっくりしてき たら?」
フッ、とかすかに笑った彼はいつものように足音を立てずに出て行く。
(珍しい、というのを 彼 が理解しているのか 知らない けど、)
めったに表情を変えないレオンハルトが、彼女が話しているときは非常に興味があるように話を聞いていたのだ。エレボニアの遊撃士とすらまともなコミュニケーションを取らない彼が、ああやって話を聞いていたりするのはめったにないことなのだ。
(たしか、弟みたいな子も、彼女くらいの年だったわ ね。)
彼の出身ハーメル村に外部から人が入れなくなってしばらくたつ。理由は知れないが、帝国の上層部の判断だった。彼はその身分から出入りしていた時期もあったが、それも今は困難だと聞いたこともある。現在ではその存在を抹消した地図ですらある。
今回、リベールから付き人の依頼が来た時、他の誰よりも彼が適任だと思った。
(間違っては、いなかった。でも、問題はあの子。)
あのエステルという少女、遊撃士協会でも最年少の若さで正遊撃士になったと聞いていたが、現在の内面は混沌としていた。以前彼女の父親から聞いてはいたが…。
「たしかにあの子、太陽み たい。でも何かに戸惑って る。
それがこの旅でその不安が、少 しなくなるといいのだけ ど―――」
そっと眺めた帝国の空は、いまだに晴れる様子を見せなかった。
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きりのいいところ、と考えた結果がこれだよ!
オリジナルちゃんが出てきてますが、読み直すと恥ずかしくて死ねますね。
口調も途切れ途切れの美人さんです。
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