「エステル、起きて。」
その良く響く声を彼女は知っていた。だから、一度では起きない。
「エステル、朝ご飯が出来てるよ?」
やさしく彼は呼びかける。でも、その声も慣れているのかどこか楽しそうだ。
「エステル?もう、いい加減にしないと―――」
「いい加減にしないと、本当にこの依頼取り消すわよ?」
「…ってシェラ姉?!まってごめんなさい今すぐ起きるからっ!」
まどろみから一気に覚醒。ベットの横には姉弟子であるシェラザードが仁王立ちしていた。ごめんなさいとても怖いです本当にごめんなさい。
「まったく、こんな時間まで寝てるなんて…そんなにすることないの?」
「…へ?今って朝じゃないの?」
ぴし、と指で指された先をみると窓の外は真っ暗闇。この暗さだったら、夜の7時くらいだと思われるが、しかしこの時間に起こされるなんて。
(どうせだったら寝かせて置いてくれればいいのに…)
「どうせだったら寝かせて置いてくれればいいのに、って顔してるわね?」
ドキリ、として横を見ると先ほどよりさらに凄みをました姉弟子がこちらに笑顔を向けて、さらに鞭に手を置いていた。
「ごごごごごめんなさい!…で、えーっとどうしたの?」
手を思いっきり振って謝ると、盛大な溜め息が聞こえてくる。
「本当にあんたは…。ま、いいわ。今度の依頼の件だけど、出発は明日の夜になりそうよ。」
「明日?!」
「そ。でもその様子じゃ準備は出来てるはずだし、大丈夫よね。」
準備の面だったら抜かりはない。が、しかし、
「どうしてそんなに早く―――」
「依頼側のきっての願いなんですって。それと同行者だけど、エレボニアの遊撃士だそうよ。」
「エレボニアの?リベールの人じゃないんだ…。」
シェラザードが言うには、その遊撃士は腕のたつ人物で、エレボニアの遊撃士協会でも1,2を争うくらいらしい。さらに遊撃士のなかでも年が若いようで、適任となったそうだ。
「そ。国内の遊撃士行かせるよりも、そのほうがいいだろうって、さ。」
「へー、ってシェラ姉、どしたの?」
近くの椅子に座り、嫌々話をするシェラザードに違和感を覚えずにはいられない。さらに先ほどから椅子に座りもせずに部屋の中をうろうろしていた。
シェラザードがここまで露骨に嫌そうな態度を示したりすることはないのだ。さすがのエステルも不安になってくる。すると、意外そうな顔をしたかと思うと、あーと一言いってため息をついた。
「ていうかまさか、私以外の人間になるとは思わなくて。」
「は?」
「だって、私があそこまでアプローチをかけたのによ?!なんでなのよ!あーもー本部のやつら、今度あったら覚えておきなさい!!!思い出すだけでも腹が立つ!」
エステルは目の前にいる姉弟子が、今なら視線で人も殺せるんじゃないか、というくらいいらだっていた。こういうときは黙っているに限る。そう思い、適当に相槌を打ちながら、思考を停止させることにした。
一通り話をし終わると、シェラザードは「飲む!」といって玄関に向かった。一応家主代理として見送りに行くと、そうそう、と思い出して
「そういえばヨシュア、って誰?」
そう聞いてくる。
「私が部屋に入ってきてアンタを起こそうとして呼んだ時にさ、ヨシュアーもうちょっとーって…もう誰なの?って聞いてる?」
多少からかいのこもったシェラザードの呼びかけが遠くに聞こえる。
初めて聞いた名前なのに、どこか聞き覚えのあるような、そんな名前だった。
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姿はありませんが、ヨシュアが出張って来ました。
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