す、と音を立てずに前に出る。

作戦はエステルは後方から最も効果の期待できるアーツで攻撃、ヨシュアは魔獣に接近してかく乱するというものだ。

『私はアーツを使えるには使えるけど、もともと接近戦のタイプだから、速さは期待しないで欲しい。』

ごめん、と断りを入れられたが、それは予想できたこと。

(アイツが本体の子株だとしたら―――)

そこまでの体力もないだろう。先ほど攻撃した根先はすでに動かない。ということはつまり、相手は考えている以上に軟弱という考えに辿り着く。

(火のアーツ数発で倒れるはず…)

次の瞬間にはヨシュアの姿は消えていた。





『それ』は戸惑っていた。

黒いほうは、ほんの少しの陰に隠れ、気配を消しつつ、『それ』が赤いほうに行こうとすると、小さい尖ったもので『それ』を攻撃する。

赤いほうは黒いほうに気を取られている『それ』を狙い、『それ』が嫌いな熱いもので攻撃してくる。

二人の息はぴったりで、攻撃をする隙を与えない。

『グ  ルシイ…』

くるしいくるしいいたいいたい。

目の前が赤くなるのを見たときに、『それ』は考えるのを、やめた。





「これで、終わりっ!」

ゴウ、と炎の柱をあげ、魔獣は動くのをやめ、倒れた。

常に後方で支援をしていたために怪我もなく安心して戦闘を終えたが、そのときに向かい側の木陰から漆黒の髪の少年が降りてきた。

「ヨシュア!大丈夫?」

「…あぁ、平気。エステルは大丈夫…そうだね。」

モチのロンよ!と大きく声を出して答えると、彼はおだやかそうに自分を見ていた。

(今日が初めてのパートナーだったのに、凄く息が合ってた!)

それが自分の印象だった。掛け声をしなくても彼は自分の考えていることを読んだかのように、次の瞬間には行動をしているのだ。こんな事初めてだった。シェラザードと行動している時も、考えなしの行動を慎むように言われ、レーヴェと行動する時も、自分なりに神経をつかって行動したというのに。

魔獣を倒したということより、そちらの方に自分は喜んでいる――。

彼に話しかけなければ、そう思い、気が緩んだ瞬間だった。





「きゃ…!」

一瞬。そう一瞬だった。一瞬だけ気配が現れたかと思ったときにはもう遅かった。

エステルは近くの木に打ち付けられ、気を失っている。彼女を打ちつけたその木の根は彼女を木に縛り上げ、「人質」をとり、勝ち誇ったかのように悠々としていた。

先ほど黒焦げになったその人型がもぞり、と動き、立ち上がったかと思うとその黒くこげた表面をバラバラと振り落としていく。そのなかに、青白く光る球体が見えた。

その球体は眠り続ける彼女の周りを数周したかと思うと、ふわふわとまた、もとの場所に戻る。口があればこういったであろうことは想像がつく。

「こいつは人質だ。おとなしくしていれば、何もしない。」

おとなしくしていれば、か。

笑わせてくれる。

ボワ、と自分の心の中に闇が広がっていくのがわかる。

(始まった―――か。)

その闇は音も立てずにスイ、と自分の心にひろがったかと思うと、瞬く間にすべてを闇に染めてしまう。気がつくとその中心に、自分がいる。そしてその手の中には

「スイッチ」

迷うことはない。そのスイッチをいれなくてはいけない。

これは義務にも似た、ものだと思う。

カチリ、と音をたてて、スイッチは入った。





フワフワと少女の周りを周っていた『それ』は、目の前の黒いものの気配が変わったのを敏感に感じた。

(―――――?)

先ほどからうつむいたままの少年に変化はなく、ただ辺りの空気が妙に緊張しているのを感じ取った。周りには自分と赤いのと黒いのしか居ない。赤いのは眠っているからこの空気は黒いのから発せられているというのは分かる。しかし、なにが変わったというのか。

「エステルに触るな、

それ以上エステルに近づいてみろ。

お前を、」

『それ』が違和感を感じる前に、『それ』は意識を完全に壊された。

最後に『それ』が見たものは、闇の中で爛々と光り輝く、『魔眼』だった。
























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視点がごちゃごちゃいれかわって読みにくいであろう、そういう自覚はあるんだ。










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