しばらくすると、霧のない場所に出た。

いや、正しくは霧が出ない高さ、にまで来たのかも知れない。

しばらく地面に座り呆けていたら、エステルの手をとっている手の主があきれた声で話しかけてきた。

「…あの時間帯に出てくるなんて、無鉄砲すぎるんじゃないの?」

「む、無鉄砲?というかあの時間帯にあんなになるなんて―――」

「聞いてるとか聞いてないとかいう問題じゃなくて、ふらふらするのが問題なの。」

分かった?とかいわれると、うなだれるしかなくなる。なんて正論。彼はいつだって無鉄砲な自分には耳が痛くなるくらい正解を言ってくる。

「…だって、ハーモニカが聞こえたんだもん。」

「ハーモニカ、ってもしかしてこれ?」

す、と差し出されたそれは、まさに自分が悩まされていたハーモニカだった。

年代のもなのか、光は鈍いがとてもいい品物だということが分かる。

「これ、ヨシュアがふいていたの?」

上を見上げると、あいまいな返事が返ってきた。

「そうだよ。あんまりうまくないけどね…」

誰にも聞かれるつもりはなかったんだけど、と付け加えると、ようやく漆黒の髪と琥珀の瞳を見ることが出来た。それだけなのに、妙に安心してしまう。

「良かったら吹いてくれない?」

「え?」

「久々に聞きたいと思ってたの、『琥珀の愛』。駄目?」

返事はなかった。でも、その顔をみると、困ったような表情を浮かべながらヨシュアはハーモニカを口元に当てた。



ああ、この音色だ。自分がずっと求めていたもの。

切なくて、でもいとおしいこの音色。胸をぎゅうぎゅうに締め付けられるこの音色を自分がどれだけ探していたか。

ふと、音色がやむ。まだ曲の途中だったのに、と思い横を見ると、彼は今までで一番真剣そうな顔でエステルの顔を見ていた。

「…どうして泣いてるの。」

「っ…泣いてな  い。」

「泣いてるじゃない。ほら。」

つい、とヨシュアの親指が目じりの涙を拭い、そして頬に触れてくる。

思わず目をつぶったが、そっと目をあけると、間近にヨシュアの顔があった。

(う、わ…!)

異常な速さで心臓が脈打つのがわかる。全身の血液が沸騰しそうなくらい熱い。ぎゅっと目をつぶると、ヨシュアの顔が近づいてくるのを感じた。

「――――――」

近づく温度に内心パニック状態だ。

(いやいやヨシュアとは昨日知り合ったばっかりだしでも何か懐かしいような気がするし大丈夫なんじゃないって何が大丈夫なのよ!シェラ姉も流されてお酒飲んじゃ駄目よってそれシェラ姉に言わないといけないセリフじゃん!っていまはそんなこと言ってる場合じゃないのよこの状況でどーおーすーれーばーいーいーのーぉ!!!遊撃士試験ではこんなの習わなかったんですけどっ!)

ところが、目を瞑ってしばらくしても、何も起きない。

薄く目を開けると、向かいに居るヨシュアはエステルの肩に寄りかかるようにしている。

「……」

「…ヨシュア?ヨシュアさーん…。」

ヨシュアの顔を見ると、どうやら目を瞑って

「寝てる の?」

返事はなく、ただ寝息だけが返ってきた。
























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夢が現実か微妙な雰囲気で。










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