ハーモニカの音が聞こえる。
心地いい、暖かで、でも少し寂しそうなこの音色。
(また、夢の―――)
薄目を開けると、外はまだ薄暗い。
(―――幻聴?でも、)
妙にはっきり聞こえたその音が妙に引っかかった。
寝巻きからいつもの服装に着替える。お気に入りの靴も履き、周りの人たちに音が聞こえないように細心の注意をする。こういう注意を払うことは基本好きではないのだが、これは遊撃士うんぬんよりも人としてのマナーというものだろう。
「さて、と。音が聞こえたのは―――こっちかな。」
山間のハーメルは朝霧で満ちていた。一寸先は闇、ではなく霧。
(少し、ロマンチックかも)
実際、森で霧に出くわしたらロマンチックもなにもないと思うのだが、この村で霧はとても美しく、神聖なものに感じた。しかしこうも霧で満ちていたら前が分からない。
「うー…前が見えないんですけど。」
楽しい気持ちは案外すぐに消えてしまうもので、しばらくしたら自分がどこにいるのかさえ、分からなくなっていた。こんな狭い村で迷子?!と人間としても遊撃士としても危うさを感じていたときだった。
(この音―――こっち?)
微かだがハーモニカの音が聞こえる。まるで、自分がいる場所を伝えようとしているように、小さいが、確実に。
こっちなの?
霧が深くて、どちらに進んでいるのかなんて分からなかった。
「わっかんないわよ…!」
がむしゃらに手を振り回してみても何も掴めない、この心の空洞。
その時、
パシッ、と何かを掴む音がした。いや、正しくは何かに掴まれた音、というべきなのか。
「―――え」
「こっち。」
その手はこの深い霧の中でも迷うことなく進んでいく。自分はなされるがままだ。
(誰、なの?)
いや、その問いかけはする必要がなかった。だって自分はこの手を知っている。
「ヨシュ ア?」
呼んだ瞬間、自分を引っ張っている手が握り返してきた。
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知らない村で人に付いて行っちゃいけません!
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