ヨシュアの姉、カリン・アストレイが眠りについたのは、エレボニア帝国とリベール王国との『百日戦役』が終わったあとだった。ある日、森に入っていった姉がいつまでたっても帰ってくる気配がなく、心配したヨシュアと村の数名が山に入った。いつも姉が行く場所へ向かうと、姉はそこで眠るように横たわっていた。眠るように、というよりも本当に寝ていたのだが。ホッと安心したのも束の間、どれほど呼んでも身体を揺すっても姉が起きる様子はなかった。仕方なく村の大人に背負ってもらい、姉を家まで運んでもらった。



一日、二日、一週間と過ぎても姉は起きる気配を見せない。

『OOのだんなが倒れた!』

『カリンと同じ症状みたいだ』

村人が次々と姉と同じ症状で倒れ始めた。どの村人もただ眠り続けるだけ。

エレボニア帝国から直々に派遣された医者も手を上げ、「この地域のみにしか発症しない病気」という報告がなされたらしい。そして、しばらくしてハーメルはエレボニアから隔離されてしまった。村人は明日はわが身かもしれないと、気力をなくしていた時期もあった。

「俺が必ず治療法を見つけてくる。」

それまで、みんなしっかり生きてほしい―――。

その村に住んでいた一人の遊撃士の青年の一言で、村の人間たちは今の生活を続けていた。



何年前と何も変わらない生活、しかしどことなく皆、薄暗い影を背負っているようだった。

誰か、この影を吹き飛ばしてくれそうな人はいないのか、ヨシュアはいつもそう思っていた。姉が生きていれば、まだ良かったのかもしれない。姉は周りを笑顔にする何かを持っていた。

「僕が眠り続ければよかったのかな…。」

つい、心の奥で思っていたことを口に出してしまう。

いけない、そうは思いつつもあの敷き詰められた環境で弱音を吐くなというほうが無理があるというものだ。ぱた、と草むらに寝転ぶと昼の強い日差しを和らげるかのように、心地よい風が吹いてきた。



「ヨシュア…」

ゆさゆさ、と誰かが身体を揺らしている。

「もうご飯できたよ?いつまで寝てんのよ、もう。」

薄く目を開けると栗色の髪と真紅の瞳が映った。

(ああ、彼女だ。)

起き上がると周りはもう薄暗く、肌寒くなってきていた。

「ごめん…って今日の当番、君だったっけ…」

「本当に寝ぼけてるわね…。今日は父さんが帰ってくるから一緒につくろうって言ったのヨシュアじゃない!」

そういえば、彼女だけに作らせるのはあまりにも不安だから何度も言ったのは自分だったっけ。すっかり忘れていた。

「ごめん忘れてた…。」

そういうと彼女はそんなこともあるのかと、目を大きく開いてとても驚いているようだった。

「ヨシュアも忘れたりするのね…。なんだか凄い発見。」

「君は僕をなんだと思ってるわけ?」

そう返すと、彼女は視線をそらしながらあーとかうーとか言っていたが、ハッと何かを思い出し、手を取って走り出した。

「ちょ…?!」

「忘れてた!父さんもうすぐ帰ってくるの!」

だから急がないと!といってヨシュアの手を強く握った。

ヨシュア自身もまた、その手を離すまいと握り返した。



ゆさゆさと、誰かに揺らされている。

もうこの心地のいい夢から醒めないといけないのか。

「ちょっと、もしもーし!」

聴きなれない声、すこし薄目を開けると、周りが薄暗くなり始めてわからないが、どうやら少女の声ということがわかる。

「レーヴェ…この人起きそうにないんだけど。」

「そうか。いつもは呼べば起きるんだが。」

疲れているのかもしれないな、という声で急激に頭が冴えていった。

「レーヴェ?!」

「あたっ?!」

ゴン、という音で誰かと自分の頭がぶつかったことが判った。判ったからといって、すでに起きたことをどうする事も出来なかったが。少しはなれたところで、レオンハルトの「何やってるんだ…」というあきれた声が聞こえた。でもこれは仕方がないんじゃないのか。というかいろいろ痛くて微妙に泣けてきた。

「いったぁー…」

「ごめん、大丈夫?」

相手を見ると、周りが暗くなっているからよくは見えないが、どうやら自分と同い年くらいの少女、で、ツインテールのようだ。さらに、

「あ………。」

栗色の髪、そして涙で滲んでいるが、その瞼の奥には、

「大丈夫大丈夫…あたしもうっかりしてたから…ごめん!」

一瞬だった、その瞳は夢に見た、真紅のそれだった。
























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「ゆ、夢に出てきた子にそっくり!」

とか抜かしたら殴ってますが。

ようやく二人が出会います。










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