『ハーメルの悲劇』。

とあるところではそう呼ばれるその事件は、ある一人の人間の手によって阻止されることになる。しかしそのハーメルを今は違う悲劇が襲っていた。





「カリン姉さん。」

木製のドアを開けると、そこには漆黒の長い髪の女性が眠っていた。

あの日から、村の人間は一人、またひとりと眠りについている。

「姉さん、昨日は隣のおじさんも眠ったんだって。」

この村は、帝国南部の小さな村、ハーメル。

山間部にあり、外部との交流はめったにないといってもいい。現にこの少年、ヨシュア・アストレイも村から外に出たことがない。

自分の意思とは関係なく、ハーメルはでることも入ることも許されてはいない。



ヨシュアの朝は眠り続けている姉の世話から始まる。

それが終われば村の手伝い。昼過ぎにはそれも終わり、家でご飯を食べる。

昼からが剣の稽古。夕方には家に帰り、夕食をとって眠りにつく。

少年はこんな生活を長く続けていた。何年たったという考えは三年目にやめた。そんな行為は自分を苦しめるだけだと分かったからだ。



このハーメルを襲っているものは見えないもの。



村の人間が一人ずつ眠りにつくというものだった。原因が分からず、とうとう帝国はハーメルを隔離してしまった。限られた人間しかくることが出来ず、なおかつ外に出ることも許されない。まるで牢獄だった。兄のように慕っていた青年は遊撃士として外に出て、ときたま帰ってきていたが、今はハーメルに入ること自体が難しいという手紙が届いた。

こうした生活を始めたからか、ヨシュアはよく夢をみるようになった。







いつも自分が見る少女は笑っていた。

そこにいる自分はまるで生きる気力がなく、自分でも気持ちが悪くなるくらい、暗い気持ちであふれていた。そんな自分にその少女はいつも話しかけていた。話しかけても言葉を返さない自分。でも少女はいつも笑顔で話しかけ、たまに家の近くの街に連れ出していたりもした。

ゆっくりではあるが、自分の考えも変わってきているのが分かった。初めて名前を呼んだときいつも以上に喜んでくれた。自分の些細な行動で少女はキラキラ笑ってくれた。



気がついたら自分は少女が好きになっていた。



告白なんて出来なかった。少女は自分を弟か、家族としか見ていなかったし、自分も、なぜかは知らないがそんな権利は自分にないと思っていたから。

成長して、自分と少女は遊撃士を目指していた。

毎日勉強に武術に忙しかった。少女は勉強が苦手なようで、いつも自分が出来るだけわかりやすく噛み砕いて教えることもあった。



このころになると、自分は少女への気持ちを整理できるようになっていた。



好きだという気持ちは日に日に増えていくのに、少女は全く気がつかないし、自分が他の少女に告白されたのにも気がつかない。

「いつか、彼女が自分の気持ちに気がつくときが来る」

ということはこのままないように思えてきた。でもそれでも良かった。

自分は、彼女のそばにいれればいい。それだけでいいのだと思っていた。

父親だけだったからか、少女は年頃の女の子が好きそうなおしゃれにも興味がなかったし、恋愛にも興味がなかった。これに自分は内心とても喜んでいた。少女はボーイッシュではあったが、案外異性の子どもたちに好意を寄せられていたのだ。



また季節はとんで、とうとう自分と少女は準遊撃士となる。







「昨日は、そこまでだったけど…」

正直、これはなんなのか全く分からない。自分はそんなに空想が好きというわけでもないし、この夢が始まったときは村の外なんて興味すらなかった。

(この夢のせいもあって、最近は村の外に出て行ってみたいなんて思うようになったし。)

なによりも、あの少女、だ。

「村を出れば彼女がいるという保証もないって言うのに―――。」

少なくとも、あの風景は帝国ではない気がする。

村にある写真をみたことがあるが、エレボニアというよりむしろ、

「リベール王国、に近い気がする。」

その現実にまたうなだれてしまう。

村から出ることも出来ない自分が、エレボニアを出てリベールへ?



「夢は見るだけにしていたほうがいいってことかな…」



名前も知らないあの少女への気持ちが、日に日に増していくことにヨシュアは不安を覚えていた。
























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彼の登場とともに、依頼の姿が明確になって・・・来るはず。

カリンさんは寝ています。しゃべりません。










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