「オリビエ、レーヴェ、お茶が入ったわよ。」

慣れないことをすると時間がかかる。ましてやそれが王族(といってもあんなふざけた王族では困るのだが、)と今日知り合いになった凄腕の遊撃士ではしかたがないというものだ。以前忍び込んだ王宮のメイドのお茶の入れ方を真似てみたのだが、正直あまりうまくいった気がしない。

カチャカチャと慣れない手つきでティーセットを持ってきたのだが、そこにいるのはオリビエと、軍服を着た青年がいた。

(あの人は確か…)

「ミュラーさん、ですよね?」

「…エステル・ブライト。なるほど、こいつがまたあなたに世話になってしまったようだな。」

「いえ!…相変わらずお疲れ様です。」

うむ、と困り顔なのはもう彼の普通の顔になっているのだろう。精悍な雰囲気のある青年なのに、常に頭を悩ませているのは、その横であふれんばかりの笑顔を浮かべている。

「オリビエが少しでも常識ある行動を取ってくれればいいのに…」

「エステル君、その言い方だと僕が悪いことをしているみたいじゃないか!」

「その言い方だと、わざとやっているようにしか受け取れないんですけど。」

アンタの場合、とつけるとエステル君ひどっ!と傷ついたような顔をするが、この二人本当に分かり合ってるんだと見ていて感じる。

(少し、うらやましい かな。)

こうした相手はエステルが覚えている中ではいない。シェラザードもそれとは違う気がする。昔はこの二人みたいな関係の相手が、自分にもいた気がする。



『エステル、きみ、もしかしてわざとやってる?』

お茶を入れる方法を学んで復習するときに呆れ顔で自分の横で呆れ顔で、でもどこかそれを理解しきっている少年がいなかったか。



「…ステル君。エーステル君。」

「!あ…ごめんごめん。なんだったっけ。」

ちょっと依頼人がいるのに無視するなんてひどいんじゃないかい?と呆れているが、お前だから仕方ないかもな、などと二人は他愛もない話をしている。

(……?)

「そういえばレーヴェは?」

「あぁレオンハルト君かい?彼なら一足先に外に出て行ったよ。」

・・・・・は?

「はああああああ?!何で言ってくれないの!」

「え?彼がいないとまずいの?」

まずいって言うわけじゃないのだが、ハーメル村までの道のりを知っているのは彼だけだし、ここまでの道のりで何度か強い魔獣にも出くわした。

(恥ずかしい話、彼がいないと私じゃここから南の一番近い街まで行くのも無理だわ。)

あーもーどうしよう!と悩んでいたら、ふと手にかかっていた重力感がなくなった。

「…え。」

「レオンハルトなら入り口で待っていると思うが、急いでいくに越したことはないだろう。これは俺がしておくからいくといい。」

片手でティーセットを持っている軍人、というのがとんでもない違和感をかもしだすものだと理解したが、今はそんなことを言っている場合ではない。

「ありがとうございます!それじゃあオリビエ、ミュラーさんに迷惑かけちゃだめだからね!」

そういって走って入り口へ向かい走っていった。



「相変わらず元気な娘だな。」

「本当にかわいいよねーエステル君は。」

「お前がいうとどことなく犯罪の香りがするからやめろ。」

そういうとまったく頭が固いんだからーといいながら椅子から立つ。

「…ハーメル村のこと、外部の人間に任せてよかったのか。」

「外部、というかねエステル君じゃないと駄目だったんだよ。」

君に理解できるか分からないけどね、と憂いを帯びた目でどこか遠いところを見ている。

幼馴染、とは言ってもこの男を自分自身がどこまで理解できているかなんて、そんなのはミュラーもわかっていない。元々帝国の王族に生まれた彼がまともな形で自分を形成しているとは思っていないのだが、それでも時たま掴めない人物だと感じずにはいられないことがあった。

「俺にはお前の考えていることは分からないが―――

お前の横に立って、お前を手助けしてやることくらい出来る。」

そういってエステルが入れた紅茶をカップに入れてオリビエに渡す。

夕日で見えないが、いつもつかみどころのない幼馴染の顔がゆがんでいるように見えた。

「…エステル君、これ苦いよ。」

高かったんだけどなぁ、と彼が少し目じりを拭った。
























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ミュラーさんが動かしやすい件について。








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