エレボニア帝国の小さな村からの依頼―――。





エレボニアとの休戦という形ではあるが『百日戦役』が終わり、遊撃士たちも各国を行き来できるようになった時代に、一人の少女が最年少で正遊撃士になった。



彼女の名は、エステル・ブライト。



父親はカシウス・ブライトという。彼女は先の『百日戦役』で英雄と言われるその人を父に持つ少女だった。カシウスは『百日戦役』後、軍をやめて民間人の安全と地域の平和を守る遊撃士になった。そんな父を見て育ったせいか、娘であるエステルも遊撃士という道を進んだわけだが、その道は平坦ではなかった。

―――主に、学力の面が。

様々な苦労を(周りに)かけながらも、準遊撃士になり、そしてリベール王国を旅し、先月晴れて正遊撃士となった。その彼女の初めての仕事が、



「エレボニアに行く。」



だった。



「…エステル、言っとくけどこの仕事はあんたレベルじゃないわよ?」

「だーいじょうぶよっ!なんとかなるって!」

そのどこから来るか分からないくらい自信にあふれた少女の横で頭を抱えているのはシェラザード・ハーヴェイ。多くいる遊撃士のなかでも中々の実力者として知られ、「《銀閃》のシェラザード」の異名をもっている。しかしこのときばかりはその影は薄れ、ただのわがままな妹に振り回される姉、にしか見えない。



「本当にあんたは…リベールを一周して何を学んだのよ…。」



しばらく会わないうちに女らしくなって、いや、女らしくなったのだけれど、普通はそれと同時に大人びた考えとか、目線が高くなったとか。

(そういうのはこの子とは無縁なのかしら…。)

昔から無鉄砲が売り(にされても困るのだが、)だった彼女が生まれ育った街を離れてリベールを旅する、と言ったときも多少の心配はあった。エステルが旅をしている間はその噂を様々なところから聞き、ひやひやしながらも父親と同じく多くの人とつながりを深くしている様子に姉弟子として多少誇りを持ったり、次に会った時にはもう自分に心配なんてさせないんじゃないかと、そう思っていたのに。



「とーにーかーくー!私はこの仕事、請けるからね。絶対に!」

「〜!…分かったわ、勝手にしなさい。」

「ほんとっ?!」

「た だ し、あんたのレベルじゃこの仕事は荷が重過ぎるわ。たぶん協会から補助として遊撃士がつけられると思うけど、文句は言わないこと。分かったわね?」

えーとかはーいとか妙に納得の言っていない声が聞こえてきているがそれは聞き流すことにした。

にしてもこの仕事、通常だったらありえないのだ。戦争中でないとはいえ、いまだにエレボニアとは不穏な空気がないわけではない。そんな状況で、わざわざリベールに依頼をもってくるなどと、はっきりいって怪し過ぎる。まだ新米の遊撃士にいかせるなどもってのほかなのだが。



(エステル宛に届いた依頼、だものね。)



遊撃士協会も驚いたであろう、そのどう考えてもCランク以上の人間が適任と思える依頼は新米遊撃士のエステルを指名した依頼だった。エステルの性格を考えると断るはずもないが、にしても、何故? (カシウスさんだったらまだしも、名も知られていないエステルに…いや、カシウスさんの娘であるエステルが知られていないはずもないけど。)

一人考えに耽っているシェラザードと違い、許可をもらったエステルは嬉しそうである。あの戦争が、彼女に与えた傷は深くないはずもないのに。



「ねーシェラ姉!いつ帝国にいけるの?」

「…はぁ。」

「シェラ姉てば!」

「…来週までに準備をしておきなさい。細かい手続きは私がしておいてあげる。」

「それくらい私が―――」

「言っとくけどね、この仕事、舐めてかからないほうがいいわよ?準備は完璧にしときなさい。エレボニア内はリベールみたいに優しくないからね?」

にこり、と凄みを利かせた笑みを向けてやると、エステルは顔を引きつらせて返事をする。まったくことの重大さを分かってないというか、そこがエステルのいいところではあるのだが、このときばかりはこの性格をまず直して置くべきだった、と思わずにはいられない。



(こういうときに危機管理をもってこの子を制御できる子がいたらよかったんだけどね…。)

ちらり、と黒髪の少年が浮かんだ気がしたが、すぐに思考を元に戻した。

















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第一話です。無駄に長い。

これから長かったり短かったりしますが、どうぞお付き合いください。






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