オレが最期に見たのは、真っ白な世界だった。



I probably choose the same ways



「う…」


もう動かないはずのオレの体が、動く。

震えるはずのない声帯が震え、声が出る。

そして有り得ないことに、オレの目が開いた。

その目はしっかりとその場の風景を脳に届ける。

そこは最期に見た真っ白な、どこか清浄に見える世界でも美しく穏やかな死後の世界などでもなく、見慣れた―――しかしどこか随分と懐かしい―――オレの、執務室だった。



「何故だ…?………ッ!?」



疑問を声に出して、またオレは驚愕する。

ずっと出していなかったからか喉から出た、引きつったような声は―――明らかに、高い。

慌てて見れば自分の手は幼子の手をしていて、着ている服も特務師団長としての服ではなく、昔の、誘拐されて来た時のものだった。



何なんだ、コレは。

今まで見ていたものは、長い長い、夢だとでも言うのか?

いや、そんなはずがない。

夢にしてはあまりにも筋が通っていて…鮮明すぎるものだった。

痛みも、憎しみも、そして、僅かながらの温かい感情も。

では、夢でないとすれば?

ローレライの戯れで、オレはここに戻ってきたのか?



「…くそっ!!」



いてもたってもいられず、オレは部屋を飛び出す。

ある程度自由があるということは、攫われて来てからどれ程かの時間が経っているのだろうか。

それともあのヒゲに泳がされているのか。

しかしそんなことは所詮“そんなこと”にすぎなくて、オレは幼い身体を必死に動かしてバチカルに向かった。

オレが“戻った”というのなら、もしかしたら“アイツ”もそうなのかもしれない。

そう思ったからだ。



子どもの一人旅。

うざったい程の視線を感じながら、オレはバチカルに辿り着いた。

すぐさまファブレ邸に向かい、警備を掻い潜って自分の部屋だった場所に向かう。

裏から回って窓から見れば、無用心にも窓が開いていた。

そこからそっと覗き込んでみれば中にはガイも他のメイドもおらず、ただ、ベッドの上で呆けたように座っている朱を見つけた。



素早く、しかし出来る限り物音を立てないようにカーテンを避けて部屋に入り込む。

しかし気配に気付いたのか、はたまた偶然か、その朱はゆるゆるとオレの方を振り返った。





途端、オレの姿を映した翡翠の瞳が揺れ、それが零れ落ちそうな程に目が見開かれた。

オレと同じ、幼い手がのばされる。



「あー…?」



生まれたばかりのレプリカは、言葉すら満足に話せないようだ。

オレは内心、舌打ちしたい気持ちでいっぱいだ。

これでは、アイツも“戻っている”のか判断がつかない。

そこでオレはベッドに歩み寄り、目の前に膝をついて顔を覗き込んだ。

言葉からは無理でも、その表情から何か情報を得られないかと。



けれど、覗き込んで窺うよりも早く、幼子の柔らかい腕が首に絡みついた。

そのまま肩口に頭を預けるようにし、しがみついてくる。

それこそ、離すものかと言わんばかりに。

…結構痛いのだが。



「…おい、」

「…しゅ、あー…しゅ、…あ、しゅ…」



オレと同じ、幼い体。

オレと同じ、高い声。

オレと同じ、色彩。

オレの色の方がこいつよりも濃いけれど。



そしてこの耳で確かに聞いた、たどたどしく呼ばれた“今の”オレを表す、名。

あぁ、この朱は確かに―――あの“ルーク”だ。



「…ルーク」



応えるように呼んでやると、一瞬身体を強張らせた後、更に強い力でしがみついてくる。

肩口が冷たい。

あぁ、泣いているんだろうか。



突き放すこともせず、鼻水付けやがったら殴るからな、などと凄むこともせず、オレはただ、自分に縋る小さな背中をあやすように撫でた。

自分でも信じられない行動だ。



しかし、コイツが泣いているのは約束を守れなかったオレが原因だと、解っているから。

例えあの約束が、最初から守れないと互いに解っていたものだったとしても。

それでも。





あぁ、ここからまたあの愚かな戦いを繰り返すと言うのなら、今度は別の結末に辿り着けるのだろうか。

この朱と共有する未来とは別の、結末に。



「ルーク、お前は…」



変えたいのか。

辿り着きたいのか。

別の、結末に。



それともそう思ったのはローレライか?


最後の部分だけは言わず訊ねると、顔を上げてはいない状態のまま首肯するのが判った。

長い朱髪を撫ぜながら、オレは微笑する。

予想通りの、返答。

きっと理由も、同じだろう。













オレはきっと、同じ道を選ぶ。

何度でも、何度でも。

例えそれが、願い通りになっても、ならなくても。

コイツを悲しませるものでも、そうでなくても。



叶えたいものは、ただ一つだ。

そのためなら、オレは。







I probably choose the same ways



END



あとがき+言い訳


キリ400番を踏まれました、くずもち様からリクの「アッシュ逆行」です。
あはは、ごめんね遅くなって。しかも勝手にALにしてしまいました。
そしてシリアス駄文〜…(殴)
くずもち様のみお持ち帰り可です。いるならどうぞ☆


恒例英文訳:私はおそらく、同じ道を選ぶ

↓↓紗来的文章解説↓↓ 読みたい方は反転


ここでのsame waysには2通りの意味を込めてます。
ルークの行く道と同じ道を行く、っていう意味と、それで違う結末が望めないのならば通常EDと同じ選択をまた選ぶという意味です。
要するにアッシュ死イベントがまた起こってしまうわけで…
まぁ、アッシュは自分が一番叶えたいもののためならそれでも構わないと思ってるってことです。







くずもちの(余計な)コメント

キリバン万歳…!!
素敵!素敵ですよね!凄いなぁもう凄すぎるよ狭霧さんてば!
無理難題押し付けてごめんとか言ってたけど全然無理じゃなかったんだね。
うふふ、そうなんだね(微笑)
これからも狙いに行くから覚悟しといてね!えへ!
…つか既に踏んだんだけどどうすればいい?却下?(当たり前だ!)
狭霧さんのサイトにはリンクから行けますよー。


戻る