馬鹿なことはやめなさいと何度も言うのに、その子は笑って首を振るのだ。
これは自分にしか出来ない仕事だから、と。
最初のうちはひとつひとつ丁寧に作業を進めていたようだったが、そのうち自らに残された時間の短さに気付き、だんだんと簡素にことを進めるようになった。その過程を、彼はため息の嵐でもって見ていた。見るだけではなく声もかけたし手を貸そうともした。けれどその子は声を無視して手を丁寧に断った。

「無理ですよ」
「そうだな」
「あなたはやはり頭が足りていないのですね」
「そうかも」
「手伝います」
「いいんだ。ありがとう、ジェイド」
断られるたびに彼が泣きそうになっているだなんて、きっとこの子は知らない。そもそも、彼が悲しむとか苦しむとかいう感情を滅多に持たないとでも思っているんだろう。
きっとそうなのだろう。

「ジェイド」
「…なんです」
「見てなくて良いよ。そんなに痛そうな顔するなよ」
「………」

わかっててやってるのか、この子は。
表情を隠すように俯いて眼鏡の位置を直し、嵐の中にもうひとつため息を投げ込む。
その間、その子は砂遊びでもしているかのように土を掘り、浅い穴を作るとそこに摘んできた花を投げ込んで土をかぶせる。そしてぺたぺたと手で土を固めると、印も何もつけないままそのすぐ横で土を掘り始める。一度そのことの是非を指摘したことがあったが、
「印があったら、縛られるから駄目だ」
と返事が返ってきた。もはや何がしたいのかまったく分からない。

「何人目ですか」
「さぁ、もうわかんねぇや」
「…いつまで」
「時間が続く限りは」
応えて振り返り、太陽のように笑う。

いつか失うのだと想像して、僅かに手が震えた。

「ジェイド」
「なんです」
「帰ってきたらさ、ここに出来るだけ大きな穴を掘っといてくれよ」
「…今じゃないのですか」
「帰ってきたら。ま、気が向いたときでも良いからさ」
誰が、帰ってきたらだろう。聞こうとしてやめた。二人の間でその問いは果てしなく無意味なことだ。変わりに彼は別の問いを口にした。

「何を埋めるのです」

ちょうど掘った穴を埋めたその子は、腰を伸ばすようにして立ち上がり、彼に向けて謎かけのように笑った。それだけで、その子がなんと言うのか分かってしまった彼は、僅かに表情を歪めた。

視線を落とした地面は、掘り返されてぼこぼこだった。それが自分の心のようだと、なんとなくそう思った。






俺が埋まるから




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