注意
この話は、ED後ルークとアッシュ二人とも帰ってきたという設定です。
(わたし的に)おそろしく暗い上に誰も幸せになれません。
軽く死にネタを含み、ルクティア前提です。
上記にひとつでも拒否反応がある場合は速やかにお引き返しください。
読んだ上での苦情は受け付けておりません。

耐えられる自信のある方のみどうぞ…↓


























冬の初めの日だった。

シルバーナ大陸、特にケテルブルク付近は今夜、大雪になるらしいですからお気をつけくださいねと、そう言われたのを不意に思い出した。その瞬間に途切れかけていた意識が再び繋がる。
開いた目にひらひらと降ってくる雪は穏やかで優しく、後数時間後にどれだけ豹変するのかはわからないが、止む気配もなくひたすら降り続ける白は、吹雪になろうとなるまいと、哀れな一人の男を覆いつくすのにそう時間はかからないだろうな、そんなことを他人事のようにぼんやり考えた。
脇腹に当てた手が暖かい。そこから流れ出る命の源はいま、どれほどの白を赤く染め上げているのだろうか。吐く息はいつの間にか透明さを帯び、全身の温もりが傷口から抜けていっているのが容易に想像できた。痛みも寒さももうわからない。穏やかに降り注ぐ雪が慰めるかのように頬をなでた。

あの子どもが、どんな意思を持って自分に刃を向けたのかは、もうわからない。
心当たりがありすぎて笑える。どれだけ傷つけたのか、どれだけ殺したのか、いちいち覚えておくには俺の記憶力は少なすぎた。償うと言いながら、俺は一体どれだけ見当違いの方向へと頭を下げ、謝罪のことばを口走っていたのだろう。許されることを望んでいたわけじゃない。俺は許されたつもりになっていたのだろうか?(なんて馬鹿らしい)
震えながら血に濡れた短剣を引き抜いた幼い手は、いつかの自分を思い出させた。
ロニール雪山に父親が出かけていて、帰ってこないのだとその少年は言った。迎えに行きたいから、護衛を探しているんだ、と。僅かの紙幣を握り締めて、宿で旅の傭兵たちに邪険に扱われていた少年の言葉に、演技はなかった。彼は確かに父親を探しに行きたかったのだ。ただ、探しに行くには場所が遠すぎて、だからお金を稼ぎたかったんだ。

少年の父親が帰ってこない場所は、鉱山の、町。

俺がそれを知ったのは、少年が俺の懐から財布を探り当てている最中だった。寒さと抵抗されるかもしれないという怯えから、少年の手際は酷いものだった。そして自分自身と神様にでも言い聞かせるように少年はずっと喋り続けていた。
「父ちゃんが帰ってこなくて、母ちゃんは病気になっちゃったんだ。だからおれが探しに行って、見つけてきてやるんだ。でもおれは小さすぎてどこも雇ってくれなくて、お金も稼げなくて、でもこれ以上時間がたったら母ちゃんが死んじゃう。お医者様がこの間おれにそう言ったんだ。もう治療に払うお金もないから、どうにかして母ちゃんに父ちゃんを、最期のひと目だけでも会わせてやりたかった。どうしたらいいかおれが困ってたら酒場に来てた旅の人がやり方をこっそり教えてくれたんだ。返り討ちになってもいいと思った。だって、おれは独りぼっちになって生きていたくない」
財布を見つけた少年は、中身を確認して歓喜の悲鳴を上げた。俺はただぼんやりとその様子を眺めて、少年がちらりと暗い視線を俺に投げるのを見ていた。
「あんた、貴族だったんだな」
少年は、俺にとどめを刺さなかった。

幼いゆえの過ちだったのかもしれない。
もし俺が死なずに助かったなら、あの少年は確実に罰せられる。俺が口を閉ざしたって、傷跡と宿屋の客たちの証言を取れば、バレるのは時間の問題だろう。俺が死んだなら…いや、きっとどちらにしろあの少年に幸せな未来は訪れないのだろう。アクゼリュスは崩落した。あの少年の父親も、他の多くの大切な人たちと一緒に、俺が殺した。そしてあの少年は消え去った町の前でどんな絶望を味わうのだろう、母親の待つ病床に辿り着いて少年はどんな呪詛を吐くのだろう。隣国の重要人物殺害が発覚し、どんな罰が絶望した少年に下されるのだろう。
全部俺が招いたことなのに、俺にはどれひとつして防ぐ手立てがない。
せめて、俺の死体がしばらく見つからなければいい、そう思った。吹雪に吹かれ、雪に埋もれ全て覆い尽くされて、春が来て雪が解けるまで、あの少年に少しの平穏が訪れればいい。母親の傍を離れず、できるならその最期の瞬間まで立ち会うことができればいい。
そう願った。

(待つのも辛いものなの。早く帰ってきて頂戴)

出かける直前に困ったように微笑んだ彼女の顔が唯一、俺の胸に突き刺さった。


『帰ってきたら、住む場所を探そう。

キムラスカ、マルクト、ダアト、何処からも遠くて近い場所がいいな。

師匠の墓参りができる場所がいい。毎日でも行ける様な所。

海の近くにしようぜ。波の音が心地よくて好きなんだ。

高いところは嫌だな。俺はずっと高いところにいたから。

みんな、たまには会いにきてくれるかな。

ガイはきっと、譜業のお土産を持ってきてくれるよ。

ナタリアはアッシュを引きずってきそうだよな。

ジェイドは陛下の名代として、とか言いそう。

アニスはフローリアンと一緒に泊まりに来るよな。騒がしそうだ。

ミュウもきっと、誰かが連れてきてくれるって。

うわ、なんかすっげぇ楽しみ。



なぁ、ティア、




俺と一緒に、生きよう』




霞んでいく視界に、温かい水が滲んだ。







BAD END





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言い訳もとい説明タイム。
最初に頭に浮かんだのは白い雪の上に横たわるルークでした。
なんでこんなことになったのかというと…なんでなのか…(おまえ)。
ティアにプロポーズ(…)した後に、各地に挨拶回りに一人旅してる感じです。
一緒に行くと申し出る仲間を、「大人になる儀式みたいなものだよ」とか言って振り払い、たまに手紙とか書きつつ世界中をうろつきまわってる最中とか。

子どもに刺されたくらいで動けなくなるとは思えないので、短剣には毒とか痺れ薬とかが塗りたくってあります。魔物と闘い勝利した直後の隙に、渾身の力で刺されたのだと。
もちろんルークは死にたくありませんし、痺れる身体でケテルブルクに戻ろうとはしましたよきっと。
それでも動けなくなって、冒頭に続く、とか。
この後助かるかどうかは、はっきりと答えを出してません(最低)。
話を聞いて不審に思ったネフリーさんが捜索隊を差し向けるとかもアリかもしれません。
…すみません、白状すると絶望的な最期はわたしの精神衛生上無理でした…。

ティアへのプロポーズ(のつもり)の言葉は、目を凝らせばどうにか最後の一言まで見えますが、見えヌェーよバーカ!って方は反転してみてくださいね。
大したことは言ってませんが。だってルークですから!(笑顔)
何はともあれここまでお付き合いありがとうございました。
次はギャグを…(自分の首絞めてるよ!)