【君を救う10のお題】

01: ヒーローにはなれないけど (ルーク)

幼い頃に憧れた絵本の主人公はいつも格好良かった。
何をするにも正しくて、悪いことなんて一つもしていなくて、正義の力を以ってして悪者をコテンパンにやっつけた。そして、たくさんの人に望まれ、祝福され、幸せな未来を築き上げる完璧なヒーローだった。
けれど。

(俺はそんなものにはなれない)

俺の存在は本来あってはならないものだ。たくさんの命も奪った。知らぬ間に奪い続けていた幸せもある。そして、俺の手は取り返しのつかないほど血に染まり、汚れきっている。
正義であるはずがない。

(…でも)

それでも、ヒーローになれなくても、俺はこの世界を救いたい。
大切な人が、幸せになってほしいすべての生き物達が、愛おしいから。
俺はヒーローになんかなれなくても良い。世界にとっての害悪であってもかまわない。
俺はこの世界を守る。


02: 一縷の希望をみつけてきたよ (ルーク&ジェイド)

「たとえば」
屋根に上ったこどもは、無邪気な声を上げて空を指差した。
暗い夜空には、宝石のような星がぴかぴかと輝いて、金平糖のように甘い光を降らせている。
「俺がもしも生きてかえって来れなかったら、あのへんの星になってみようと思うんだ」
「それはそれは。ロマンチックですねえ」
「だろ。ちゃんと見つけろよ」
雨上がりの朝、水溜りに反射する光のように笑って、こどもは腕を枕に屋根の上に転がった。そのままころころ転げて行きはしないかと心配したが、ころころと転がったのは自分の心だけだった。暗闇の中でその行方を追うと、何が潜むともわからない黒い深淵の底に吸い込まれて、ウンともスンとも言わなくなった。あれを探すのは骨が折れるだろう。下手したら、もう二度と見つけられないかもしれない。
闇の淵から目を逸らし、こどもが指差した付近に目を上げた。いきてかえってこれなかったら。彼が戻ってこなかったら。
「…では、わたしはその隣にお邪魔しましょうかね」
「はあ?」
「おやおや。何をそんなに驚いているのです。生きて帰って来れなかったらとは、わたしたちみんながヴァン謡将に負けるときでしょう」
「いや、そうじゃなくて」
「どうせなら、星座を作ってヴァン謡将に嫌がらせをしましょう。何座にしましょうか。たまご丼座が良いですかね」
あのあたりにガイを、などと指を指して、線で繋ぐ真似をしていると、不意にこどもが大きな声を上げて笑った。腹を抱えるようにして、カラカラと、笑う。
「ジェイド、こどもみてぇ」
涙すら浮かべて転げまわるものだから、ほんとうに、今度こそ屋根から落ちてしまうのではないかと心配した。

彼の涙が落ちて星になる。それが旅を導く星になれば良いのに。そんな事を考えてしまうほど、彼の存在は希望に似ているというのに。
明日、彼は、


03: 世界を壊してあげよう、そう望むなら (ルーク&ガイ)

俯いたまま緩く首を振る青年の肩を掴む。名を呼んでも、頑なに顔を上げない。
「ルーク。頼むよ」
「いやだ」
「…頼むから」
たった一言でいいんだ。嫌だ、とか、逃げたい、だとか、なんでもいい。
腕を伸ばして。そう望んで。おまえからすべてを奪おうとする世界なんて、俺が殺してあげるから。
たとえば、そう、おまえの、
「俺は、奪ったまま生き続けることなんてできない」
「それ、は…!」
不意に首を掴まれた心地がして、言葉を詰まらせる。その瞬間に顔を上げた青年の、恐怖も悲しみも諦めも飛び越してしまった、強すぎる瞳の光に、自分で分かるほど醜く表情を歪ませた。
青年は、こどものように無邪気に笑う。
「ありがとう」
この世界を守りたいんだ。青年はそう言って静かに涙を流した。


04: 掬えなかった金魚
05: 天空から掻っ攫って行くよ
06: 全部愛してあげられる(簡単だよ、だって君が好きだから)

07: あめ、のち、ひかり (アッシュ&ルーク)

ああ泣かしたと心の隅で呟く。
どうやったって優しくなんてしてやれないことは分かっているから、せめて泣かすことを止めたいと常々思っているのに。
続けて口にしかけた罵声を何とか呑みこんで、俯いた相手を見据える。
泣いている。泣かしてしまった。涙なんか零れていないけれど、地面に滴り落ちる雫は確かに感じられる。(同じモノだからとか、関係ない。彼が泣けば分かるのだ)
何か言おうと口を開けたが、どうも罵詈雑言しか出てきそうにない。
唸って、やけくそ気味に相手の頭に手を置いた。それだけじゃなんなので、軽くその上で弾ませる。
相手は驚いたように顔を上げて、何だよ、と言いながら少し嫌そうに、けれど嬉しそうに顔を綻ばせる。
ああ、そう。
(そんな顔が見たかったんだ)


08: グッバイアローン(さようなら、ひとりぼっちのわたし) (帰って来たあの人)

胸のうちで渦巻く想いがある。
一つを望み、二つで在ろうとした、悲しく切ない想いだ。
交じり合うことの出来ないそれは、けれど唯一つの意思で一致し、繋がっている。
指と指を絡めあい、決して離れまいとするような強い意思だ。
逆らえる訳も無い(その必要すらない)。
かえりたい。
彼らの帰る場所は何所だろう。
かえろう。
自らの帰る場所はあるだろうか。
いっしょに。
きっと大丈夫だ。
みんなのところへ。
(もう一人ではないのだから)


09: もうどうしようもなくなったら殺してあげるから(行けるとこまで頑張ってごらん)(ガイ→ルーク)

(本当はそう言ってやろうと思ってたんだけど、)
壁に背を預けながら、道を走るこどもを見つめる。
買い物忘れてた!と突然叫んで走り出したのだ。一緒に行こうかと言い出す暇も無かった。
転ぶかな。転ばないよな。もう手のかかるただの駄々っ子じゃない。
(心配性)誰に言われたのだっけ。仕方ないじゃないか。兄のように親のように守ってきたんだ。今更、
(……ああ)
溜息が出た。手がかからないんじゃなくて、手が届かないところにいるんだ。
もう、
(殺してやることも出来ない)


10: 掴まえた青い鳥の名前


配布元様 ユグドラシル






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短い文の練習。
…を盛大に大失敗。
増えるかもしれない。多分増えない(ああー)。