ヨシュアが最近悪夢を見るようになったというのに気がついたのは少し前。
前に同じ部屋に泊まったとき、ふと夜中に目が覚めた。
(…ヨシュア?)
ヨシュアはうなされていた、ように思う。気がついて目を覚まそうとした瞬間にヨシュアは起き上がった。荒い呼吸、どこか泣きそうにすら聞こえた。
(近くに行きたい。でも、)
どこか最近、ヨシュアが距離をおいていた。今日の部屋割りだって、最後までエステルと一緒になるのを嫌がっていたように思う。つまり『これをヨシュアは見られたくなかったということ』なんじゃないのか。
(嫌われたってことなのかしら…)
こんなに近くに居るのに、こんなにながく一緒に居るのに、2人のこころには壁があるように感じずには居られなかった。
しばらくして、ヨシュアは部屋を出て行った。

それからはエステルも出来るだけ部屋割りの時はヨシュアを一人部屋にするように気を配った。自分にも見られたくないものを、他の仲間だったら見られてもいい、という風にはヨシュアが思ってないような気がしたから。
(いつかヨシュアが自分から話してくれるまでは、)
こんなの自分のやり方じゃないけれど、こうするしか方法が思い浮かばなかった。
頼りない自分に腹を立てながら、エステルはそっと眠りについた。


それからしばらくしたときに、依頼で大ポカをした。
周りが驚いたのは当たり前だった。エステルだったらまだ分かるけど、あのヨシュアが、だったからだ。
「とにかくヨシュア、最近顔色が悪いわよ。部屋に戻っときなさい。」
ピシリとシェラザードにいわれ、困ったような顔を浮かべながらもヨシュアは部屋に入っていった。
「エステル。」
「…」
「エステル!」
「え、なに?」
呼ばれたことに気がついていなかったのか驚いた表情を浮かべるエステルにため息をつく。
「ヨシュアはいつくらいからあんな様子なの?」
「…あたしが気付いたのは2週間前。」
そうエステルがいうと、何か考え込んでいるようだった。その考えもまとまったのか、遠くを見つめて一言。
「エステルらしくないわね。」
「え…?」
シェラザードの表情にはどう見ても呆れとしかとれない表情が浮かんでいた。
「いつもだったら迷わず突っ込んでいくのに。」
「ちょ…何その言い方!」
むっとして言い返すと後ろから頭を叩かれた。
「妙な気を使ってんじゃねえよ、お前らしくもねぇ。」
「アガット…」
支部に報告に行くと言っていたが、戻ってきたようだった。依頼はどんな形であれ成功したのだから、連絡するのは至極当然のことなのだが。
「ヨシュアと話をしなさい。一番最初に気がついたのもエステルだし、ヨシュアを連れ出すのはエステルの仕事でしょ?」
さも当然、といわんばかりにシェラザードは言い、立ち上がりアガットをつれて宿を出て行った。たぶん気を使ってくれたのだろう。窓の外は夕陽で赤く染まり始めている。
(ヨシュア…)
ギシ、と音を立てる階段を一歩ずつ上がっていった。




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