何もかも奪われて、結局唯一自分の元に残されていたモノすら投げ出した。
経過はどうであれ、それは自分で決めたことの結果だ。
未練がないとは言わないが、きっと後悔はしていない。
けれどその結果は俺の綴った物語の終焉であって、決して続きなど望めるものではなかった。それなのに。
何故か増えたその物語のページには、今また新たな文字が書き加えられようとしている。
すぐ傍にある、模造品のように似通った本に書き込まれるのと共に。
「…いい加減下ろせよ」
「あ?」
不貞腐れたように、抱えたレプリカが声をあげる。
未だに信じられないが、この小さいのは本当にあのレプリカらしい。
いや、レプリカなんだが小さくなっているから厳密にはもうオレのレプリカとは言えないのかいやしかしオレから出来たという事実は変わっていないのだからやはりレプリカはレプリカでこれからもレプリカと呼ぶことに支障はない…はずだ。
ここまで考えて自分でも少し混乱した。
まぁ、屑と呼べば問題ねぇか。
自己完結してみると、レプリカはぼぅっと遠くを見ていた。
何呆けてやがる、と落としてやろうかと思ったが、そうすると後で煩いのは目に見えているのでやめておいた。
「歌…」
ぽつりと呟いた声に気付いて耳を澄ませてみれば、確かにどこからか歌声が聴こえた。
しかもかなり覚えのある旋律と歌声だ。
「行きたいのか」と問えば小さくなってしまった己のレプリカは控えめに首を縦に振った。
抱えたまま歩き出すと最初は大人しかったものの、我に返ったのか下ろせとせがむ。
しかし下ろしてやるつもりはない。
こんな小せぇのに合わせてたら時間がかかりすぎる。
しかし小さく人影が見え、いよいよ声がはっきりとしてくるとレプリカの抵抗も激しくなった。
滅茶苦茶に暴れやがるから痛いことこの上ねぇ…
一発叩いてから下に下ろしてやると、ちょこちょこと後ろを着いてきた。
歩幅のせいで仕方がないのは判っているが、ウザイ。
「……………!」
人影が顔を判別できるくらいまで大きくなって、やっとあいつら―――レプリカと旅をしていた仲間たちがこちらに気付いた。
その表情に見えるのは純粋な喜びと、僅かばかりの戸惑いだろうか。
自分には関係ないことだと人事で考えていたら、足にトン、と衝撃が来た。
どうやら散々せがんで歩いてきたレプリカがここまで辿り着いたらしい。
しかもセレニアの花に足を取られて転んだようだ。
ヴァンの妹がオレを見て何故、と問う。
セレニアの花に埋まったレプリカは見えていないようだ。
「約束、したからな。コイツが」
むしろ訊きたいのはこっちなのだが、言ったところでどうにもならないだろう。
もしかしたら、コイツのした約束をローレライが叶えようとしたのかもしれない。
そう思って適当に言ったのだが、だったら結局こんな状態になっているのはこの屑のせいだと気付いた。
何て腹立たしい!!
しかも、こいつらは恐らく今現在レプリカとオレの区別がついていない(或いは眼鏡は勘付いているのかもしれないが)。
もう何に当たればいいのかも分からなくなって、オレは無造作に小さくなったレプリカを片手で拾い上げ、コイツが、と言いながらヴァンの妹の方に放り投げた。
「何すんだよアッシュ!!」
「うるせぇ屑が」
ぼすん、と音を立てて受け止められたレプリカが文句を言っている。
オレは取り合うつもりなどないから、一言で黙らせる。
…1分も経たないうちにまたキィキィ喚きだしたが。
かつての仲間たちは嬉しさに驚きと興味を加え、アイツを見ていた。
あぁ、一体。
神というものがいるのならオレに一体どうしろというのか。
折角「一人」だった人間がまた「二人」になってしまった。
なぁローレライ、お前はオレにどこまで繰り返せというんだ?