「いやー、それにしてもお久しぶりですねー!オイラ達ももっと早くお会いしたかったんですけど」
「喧しいのは相変わらずだな。だが急ぐんだ。無駄口たたくんじゃねぇ」
「わぁ、そういう所も相変わらずですね!懐かしいなぁー!ルークさんにもお会いしたいっす!」
「・・・・・・・・・・・早くしろ」
たったこれだけの会話に疲労感を覚え、オレはぐったりと座席にもたれかかった。
それでもこの男は気にした風もなく、相も変わらずぺちゃくちゃと喋り続けていた。
よくもまあ、そんなに話すことがあるもんだ。
支度を調えて出てきたオレは、とりあえず足を探しにシェリダンへと来た。
そこでアルビオールと操縦士を得たわけだが…こう疲れるとなると、操縦士には切実にこいつの妹の方に来て欲しかったと思う。
あの後、父上を問い詰めたがあの屑は父上にも行く先を告げていなかった。
屋敷中の人間に聞いてみたが、結局誰も知らなかった。
おかげで出たときにはすでに真っ暗だった。
唯一母上には定期的に手紙を送ると約束していたため、場所が分かったらこちらに連絡して欲しいと頼んで出てきたのだ。それだけが唯一の手がかりだ。
「アッシュさん、もうすぐ着くっスよー」
「…ああ、そうか」
ぼんやりと窓の外に見える流れる雲と星を見ていたら、いつの間にか目的地間近へ着いたようだ。
あまりにも短い旅だった気がしたので、恐らく途中で寝てしまっていたのだろう。
晴れ渡った夜空と星といくつかの雲しか見えなかった視界に、ぽつんとある点。
人工的な光であろうそれが徐々に大きく、まばらになり、人々が生活を営んでいるだろう町が見えてきた。
あそこにあの屑ガキはいるのだろうか。
もしくは、アイツの傍にいたあの女が何か情報を持っていないだろうか。
思っていたよりも疲れていた身体を起こし、オレはかつて訪れた時から様変わりしたユリアシティへと足を踏み出した。
「・・・・・・・♪♪〜〜〜♪〜〜…」
「…邪魔するぞ」
「…あなた…アッシュ…?何か用なの?おじい様なら、今―――…」
「いや、お前に用がある。アイツがここに来なかったか?」
家の者に通された部屋。それはあの女―――ヴァンの妹の部屋で、女は外に出て歌っていた。
神々しくも忌々しくもある、あの大譜歌を。
足元にはセレニアの花が、月光をはじき咲き乱れていた。
女が向かっていた方向にあるのは…墓標だろうか。あの、唯一の肉親の。
では今のはレクイエムであったのだろうか。考えても答えは出ず、問うことも出来ない。
「アイツ…?ルークのこと?来ていないけれど…どうして?あなたたち、今は一緒に暮らしているはずでしょう?」
「…急に傷心旅行になんぞ行きやがったんだよ…この忙しいのに!話すこともあったというのに…」
「…話すこと?何かあったの?」
「別に何かあったわけじゃねぇよ。…ナタリアとの婚約の件についてだ」
「…え?」
女の怪訝な色を映していた瞳が、揺らいだ。
そういえば、この女は酔狂なことにあの屑に好意を寄せていたのだったか。
「正式な婚約者はあなたでしょう?だったら―――...」
「まあ、そうだがな。だが、オレは望んだわけではないにしろ、一度その立場を退いている上、その間はアイツが婚約者扱いだった。表向きは今でもオレのままだが、政治の面を考えればこれからどうなるかはまだ分からんな。今の情勢ならば、ナタリアが降嫁することも可能だろう」
「…そう、なの…」
震える唇を隠すかのように、女は俯いた。
ああ、きっと昔オレが感じた絶望感を、今この女も感じているのだろう。
屑本人に言ったときには、どんな反応をするのだろうか。
ナタリアと結婚。
開いてしまった年の差。過去の確執。
喜ぶだろうか、怒るだろうか、泣くだろうか。しかし、考えてみてもどれも想像できなかった。
そして、昔はナタリアだと信じて疑わなかったオレの隣にいる影も―――今では誰なのか判らないほどに、霞がかってしまっていた。