過去に使用した拍手(花言葉集)です。
最後の一個だけTOS(ロイゼロセレ)で、残りは全部TOAです。





ロベリア


なんてつまらないんだろう。
覚束ない足取りで走り回る子どもが、自分のすぐ前を通り過ぎようとしたので片足を突き出して引っ掛けた。それほど素早く動いたわけではなかったけれど、子どもは避けるすべなくその足に蹴躓き転んだ。まぁたとえば足に気がついていたとしても、飛び越えようとか止まろうとか避けることなんか考え付くこともなかったんだろうけど。
顔から地面に突っ込んで鼻血でも出して泣き叫べばよかったのに、子どもはうまい具合に受身の態勢(偶然だけど)を取り、でんぐり返りをして地面に尻餅をついた状態で止まった。俺の冷めた視線と目が合っても、何を勘違いしたのか楽しそうにケラケラ笑う。
もう何度も繰り返したことだ、今更殺意もわいてこない。そして子どもはよたよたと立ち上がりまた走り出す。
俺の近くを通れば転ばされるのはわかってるのに、それでも寄って来るんだから救えないほどの馬鹿だ。
ああ、なんてつまらない。

(悪意/敵意・ガイ)



山査子


「お久しぶりです、陛下」
「なんだ、他人行儀だな」
「すみません」
「いいさ、仕方ない。元気にしているか、ネフリー」
「ええ。陛下のおかげで」
「ははは、そりゃよかった」
「陛下もお元気そうで何よりです」
「俺か?いつも仕事仕事とうるさい部下がいてなぁ。昔に戻りたいとよく思うよ」
「あら、昔も同じようなものではなかったでしょうか」
「あー、そういやそうだな。あいつは昔っから何も変わらん」
「そうでしょうか。私にはだいぶ変わった様に思えます」
「そうか?まぁ、歳を取ったからなぁ、俺たち皆」
「…そうですね。私も、兄さんも歳を取って大人になりました。陛下、でも」
「ああ、俺は変わらんよ。身体だけでかくなった子どもだ」
「…陛下」
「変われないんだ、ネフリー。だけどお前が気にすることじゃない」
「すみません…」
「謝るなって。惨めになるだけだ」

(唯一の恋・ピオニー陛下)



ネリネ(ダイアモンドリリー)


年上の男の子だって聞いていたのに、会ってみたら誰だよ嘘ついたのとか本気で思った。
ほやーっとした笑顔とかのんびりした行動とか、うわさに聞いていた人物像からかけ離れていてホント眩暈がした。目を離すとすぐにどっかいっちゃうし、いっちゃったらいっちゃったで必ず何か厄介後と持ち込んでくるし。
最初は迷惑だなって思ったけど、持ってきた厄介ごとに対して絶対に投げ出さないで解決を目指す姿には、少しだけ感心した。仕方ないなとか言いつつ、一緒になって一生懸命頑張るのがいつの間にか当たり前になっていて、ありがとうと笑う姿にだんだん惹かれて。これがずっと続くなら、このまま近くにいられるのなら、きっと私はそれだけで幸せなんだろうと思った。
手を繋いで、ずっと。
イオンさま。あなたの傍で、ずっと。

(幸せな思い出・アニス)



プラタナス


鳥の鳴く声で目が覚めた。何度目の経験だろう、昔はそう珍しいことではなかったが、だいぶ歳を取った今では若い時分より身体に堪えるものがある。
知らず枕にしてしまった右腕がしびれ、ほんの少しの間指を動かすのが困難だった。それでも意地のように無理矢理右手で斜めにずれた眼鏡の位置を直し、カーテンの隙間から入り込む朝日に目を移す。部屋を舞う埃がきらきらと輝き、外の木の陰が僅かに入り込んできている。
ぼんやりとそこまで眺めて、ふと肩からずり落ちる布の存在に気付いた。探るように左手を伸ばすと、薄いタオルケットが床に落ちているのがわかった。それは彼が起きるまでこの肩にかかっていたものだろう。さらに五感を研ぎ澄ましてみると、そう苦労することなくもうひとつの気配、というか寝息に辿り着いた。振り向くと、ソファーにだらしなく寝転がる赤い髪の少年がいて、彼は思わず笑ってしまった。
タオルケットを手にソファーに近寄り、彼がそうされたようにそっとかけてやる。
気付かず眠る少年の、なんとあどけないことか。
(この子ひとり、救ってやれないなんて)

(天才・ジェイド)



きんせんか


吐き捨てた唾には、微量の血が混じっていた。舌打ちしつつ、その場に転がった男をもうひと蹴りする。もはやうめき声さえ上げないが、指先に反応があったので死んではいないだろう。地を這い、壁に叩きつけられ、ゴミ箱もろとも吹っ飛んだ男たちの姿を目だけで数えてみようと思ったが途中でやめた。キリがないし、吐き気がする。どうでもいい。
「…おに、……さ…」
途切れがちの、幼い呼び声にはっとする。冷めた視線を投げかけていた目を見開き、身を翻して背にしていた壁際に駆け寄る。そこにはぼろぼろの服を血に塗れさせた少年が壁にもたれかかって座り込んでおり、息をするのも、目をあけているのも辛そうに、それでもルークの姿をその目に写していた。自らの腹部に当てた手からは鮮血が零れ落ち、顔色も青白い。もはや手の施しようがないことは、医療に疎いルークでもわかる。いま、こうして意識を保ち声を出せたことすら不思議でならない。
僅かでも楽にしてやりたいけれどその術もない。治癒術を使えない我が身を呪わしく思った。

たすけられない。
目にした瞬間わかったことだった。だから男たちを叩きのめした。血の海に横たわり目を閉じる姿は、生きているとは思えないほど凄惨なものだった。だけど、それは判断ミスだったのかもしれない。男たちにかまわず少年を連れて仲間たちに会えれば、そうでなくとも医療所に駆け込めば助かったのかもしれない。今更ながらに後悔の波がルークを襲い、彼は強く唇を噛んだ。
「……と…」
少年が、腹部に当てていた手をゆっくりと差し伸べてきたので、ルークは跪いてその手を取った。その血は暖かく、赤く、この世界を生きる人間たちと何一つ変わらないはずなのに。(どうして、)
少年は安心したように穏やかに微笑み、何か伝えたそうに唇を震えさせた。音にならない、風のような声。ルークは首を振り、苦しいならもう喋らなくていいから、悲痛にそう訴えた。けれど、少年は伝えることをやめようとせず、何度も何度も同じだけ唇を動かした。ああ、きっと、この子は最期だと知っているんだ。ルークは少年の言葉を必死に聞き取ろうとした。
ふわふわと粒子のような光が浮かび上がり、少年の身体が薄く透け始める。

消える。
待って、まだ。

兆候の後は一瞬だった。
手にこびり付いたはずの少年の血ごと、全ては光となって世界に溶け、残ったのは少しの光の粒だけだった。その光も、呆然とした彼の目の前でそう時間がたたぬうちに消えた。ルークの手に残ったのは、男たちを殴った際に付いた血だけ。事実すらただそれだけのように、全て幻のように。

レプリカは、世界に何一つ、残せない。

握り詰めた手から血が滴り落ちた。
(いつか跡形なく、消えるんだ、と)

(悲観・ルーク)



ドラセナ


気付かれないとでも思っているのだろうか。
彼が思っている以上に、彼女は窓の外を見ている。いつもいつも祈りを込めて、ただ一人の姿を求めて。
間抜けだと思う。口に出してそういったらきっと機嫌を損ねてしまうから黙っておくけど、感情を読み取れない横顔を見てると胸がざわつく。本当は世界一と誇っていいほど仲のいい兄妹なのに。当人たちはそう思ってはいない。もどかしい。
自然に唇を尖らして彼を見ていたら、ぱちりと瞬きをしてこちらを振り向いた。途端に噴出してゲラゲラ笑われる。何その顔ロイドくんサイコー。人が心配しているというのに酷い言い草だ。
「もういいのかよ」
「ああ。ありがと、充分だ」 目元を緩め、唇の端を吊り上げて笑う。風に煽られて舞う赤い髪がきれいだと思った。
昔、正直にそう言ったら、つまらなそうな顔をして気持ちの全く篭らない声でありがとよ、と言われた。何故かは後で知った。ゼロスは自分の髪の色を好んではいない。俺は好きだ、と本人を前にして言ったら大爆笑された。熱烈な愛の告白ありがとう。でもそれはコレットちゃんに言ってやりな(なんでだよ。コレットは金髪なのに)。ゼロスは好意的な台詞を必ず他人に譲ろうとする。どうしても受け取ろうとしない。
「行こうぜ」
「だけど」
「いーから、ほら。ぐずぐずすんなって」
肩をすくめて踵を返す。その背中を追いながら、彼が先ほどまで見ていた建物を振り返る。
修道院。
彼が世界で一番大切に思う人の住む場所。
(…あ)
振り返った瞬間に、建物のドアが開くのが見えた。小柄で、帽子をかぶった少女が転がるように飛び出してくる。あれは。
もう一度彼の背中を見ると、彼は変わらず背を向けて歩いていて、後ろの異変に気付いた様子はなかった。声をかけようか迷って、やめた。
驚けばいい。
そしてどうか気付いて欲しい。

走り寄る足音がする。意外と足が速いんだな、場違いにそんなことを考えた。
妹が兄の背中に飛びつくまで、あと、

(幸福・ロイゼロセレ)




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