「あんたは妙なところで頑固だな」
もう少しだけ、とごねるチェルシーを部屋に戻してしまってからは、男二人組の一室は火の消えたように静かになった。二人の間に共通の話題があるわけでもなし、自然と部屋には沈黙が落ちる。しかし二人はそれを居心地悪く思っていない様子で、各々楽器の手入れや眠気誘いの読書など好きなことをはじめる。スタンやコングマンとペアになった場合は、どちらも忙しく話し掛けてくる(コングマンの場合は、しつこく筋トレに誘ってくる)から、こんなことをする暇はない。だからその様子は、二人でペアになった日の常の事だった。
しかしその日はめずらしく、しばらくの沈黙の後、楽器の弦をいじるジョニーが読書に耽るウッドロウにほつりと言葉を投げ掛けた。
「自分でもそう思わないかい」
「そうかな。そうかもしれない」
本から顔を上げて、ウッドロウはいつもそうするように微笑む。彼の膝の上には読みかけの本と、白い花で編んだ花冠が置いてある。本は何処から持ち出してきたのか知らないが、花冠は昼間、ジョニーが歌う横でチェルシーが懸命に作っていたものだ。沢山作っていたようだが、やはり一番上出来なものを意中の人に持ってきたらしい。実はジョニーも貰ったが、指輪サイズの小さなものだった。
「チェルシーはあんた以外を考えちゃいないみたいだぜ?」
試行錯誤の末、出来上がった花冠を嬉しそうに見せてきたチェルシーの顔を思い浮べる。恋する乙女の笑顔とは、どうしてこんなにも心を打つのだろう。頬を薄く染めていたのは、他の誰でもなくただ一人の人を心に思い浮べていたからだろう。
ジョニーの視線を追って花冠に目を落としたウッドロウは、笑顔を僅かに曇らせて、萎れてきたそれに指を伸ばした。
「…それでも、私の手で彼女の未来を奪うわけにはいかない」
「未来を与えることだとは思えないか?」
「今のところは」
やけにはっきりと答え、ウッドロウは顔を上げた。出会った表情は相変わらず綺麗な微笑みだったけれど、そこに僅かな罅をジョニーは見た気がした。けれど結局彼はそれ以上言及せず、そうか、とだけ返して手元の楽器に目を落とした。ウッドロウも本に意識を戻し、いつもどうりの沈黙が部屋に満ちていく。


ああチェルシー、お前さんはやっかいな相手に恋をした。
こいつは強敵だ。








王子さまは知らんぷり




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だけど望みがないわけじゃない。今のところは。
『命短し〜』の奴と対な感じです。ウドロさんからジョニさんへの口調がわからない(ので微妙なことに)
書いてから気付きましたがジョニさんはきっと一人きりでも沈黙しない(致命的)。
ウドロさんこの時点で王子様じゃないですが、チェルシーにとってウドロさんは永遠の王子さまらしいからいいですよね!(…)