静かに空気を震わせる寝息が、やけに心地いいと思った。
体の右側に寄りかかる体温と軽めの体重。少し暑いかなとも感じるけれど、少女が起きる気配はない。ならば、もう少しだけこのままでいようと思う。
静かだ。
鳥の声が窓の外から聞こえる。
長い間読まないまま放っておいた本の中身は八割がた忘れてしまっていた。最初から読み直す事も考えたが、きっと、また最後まで読み終わらないまましばらく放置してしまうことになるだろう。これから今まで以上に忙しくなる。それはほぼ確実なことだった。
視線を少女にふと向けて、彼は静かに表情を和ませる。
いつも明るく、元気に振舞って、場を華やがせてくれる少女は、ただ眠っているだけでこんなにも印象が違う。いつもはまだまだ幼い子どもだと、ついそういう扱いをしてしまう。たまに機嫌を損ねることだってある。けれど、いま眠っている姿を見ていると、幼さよりも少女らしからぬ凛々しさが見えるような気がした。大人であろうとした結果なのか、旅が少女を成長させたのか、どちらであるのかは定かではない。成長したということを取れば、彼にとっても喜ばしいことだ。
けれど、反面寂しくも思う。
いつか訪れる別れの時が、早まってしまうような気がしてしまうのだ。
起こさないようにそっと頭を撫でた。
少女はどんな夢を見ているのだろう。
そこにどんな姿があるのだろう。
できるなら、もう少し。
子どものままで、夢を見続けてくれないだろうか。