「さてと、」
くるりと振り返ると数人の重装備をした人間が暗闇のなかに立っていた。どことなく馬鹿にしたような、そんな雰囲気が漂ってきていた。
「何か用ですか?」
笑顔で返すと相手側は音もたてず歩き、ヨシュアの周りを囲んだ。
「何故見逃した?」
「何故殺さなかった?」
「何故」
「何故」

(うんざりだな…)
この様子だと相手側はヨシュアを殺しに来たようだが、甘い。気配を消しきれてないし、何よりも団体でいるというのにそれをいかしきれてない。向かってきた相手を単純作業のように捌いていけばすぐに終わるような戦闘だった。
(まったく…)
確実にとどめをさす。命くらいは…とも思ったが、そんなことをすればあとで自分の首をしめることになるだろう。今までの経験でわかっていた。
一人が後ろから遅いかかってきた。脇腹を深くえぐり――そのまま横へ引き裂く。内臓とともに大量の血が剣にまとわりつく。ピッと剣についた血をはらい、前方から突進して来た斧使いの方を見やる。気配を消すでもなく大声をあげて突進してくる様は少し笑えてくる。
相手がこちらに着くより先にこちらから出向く。少しだけ、相手の視覚に認識されない程度の早さで動く。もちろん気配を消すことも忘れてはいないが、相手からしてみれば、先程まで前にいた少年が急に目の前に現れた程度にしか感じられないだろう。
「な」
「――遅い。」
首に剣をあて、その冷たさに驚いている相手の首元に一線、まっすぐに線をひく。吹き出す血を浴びないようにすぐさま距離を置く。男は血を止めようと首元に手を置くが血は隙間から止まることなく溢れ出す。ひゅーひゅーとかすれた呼吸音が聞こえてきた。
(――終わりだな。)
そう思い、残りの男たちの方を振り返る。男の状態を見た仲間たちはじりじりと後退し、どう戦えばいいのかわからないようだった。はぁ、とひとつため息をつく。正直呆れてしまった。これっぽちの戦力で自分を殺せるとでもおもったのだろうか。
「来ないんですか?それじゃあ僕からいきますよ。」
剣を握り直し獲物を狙う。まずは右側をそして左、中央で。目を閉じ神経を集中させる。
(…大丈夫、やれる。)
目を開く。一歩踏み出し、闇にとけていった。





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