「そういえば…」
ずっと気になっていることがあった。
「なに?」
前方を非常用に置いてあったカンテラを持って歩くエステルが足を止めて振り向く。
「どうしてエステルは鍾乳洞にいたのかとおもって。」
たしかヨシュアが得た情報はツァイスに向かっているとのことだったがそれは昨日のことだったはずだ。エステルくらいの実力があればもうツァイスに着いていてもおかしくない、むしろそれうでなくてはおかしいように感じた。それがどうして鍾乳洞にいたのか。
そんなヨシュアを見て、エステルはあーと上を見上げて戸惑っていた。話そうか迷っているみたいだったが、ヨシュアの視線に耐えられなかったのか、ため息をひとつついて話し始めた。
「あ、のね?実はこの鍾乳洞は立入禁止なのよ…。」
立入禁止…と言うことはエステルは無断で立入禁止のところに入ったことになる。――遊撃士なのに。
「前に歩いてリベールをまわっていたときから気になってて、ね?」
(ね?とこちらを見られてもこまるんだけど。)
あははーと笑うエステルを見て少し呆れてしまったが、でもなんだかその方が彼女らしいかな、とも思う。
「まぁ別に悪くはないんじゃないかな?エステルが来なかったら僕は危なかったわけだし。」
現にエステルが鍾乳洞に入らなければ今頃僕は魔獣に襲われていたかもしれない。まぁ今までの経験から襲われても魔獣を倒せるくらいは出来たけれど。
「あははー。そう言われると入ってよかった」
「とは言ってないからね?鍾乳洞には危険な魔獣も多かったし、足場も脆かった。入らないことが一番よかったよ。…でもまぁ、エステルが鍾乳洞に居てくれてよかった。」
これは本当だよ?と言い、エステルの方を見ると今までで一番の笑顔でヨシュアを見て笑っていた。
(……っ!)
やばい。
きっと今、自分の顔は赤いに違いない。助かったのは鏡がないことと周りが薄暗かったということだった。
(どうしたんだろう…僕は)
今まででは全くなかった体(心?)の異変に気がついていたが、一体それがなんなのか分からずにいた。
(帰ったらレーヴェに聞いてみよう…)
そんなことを思いながら二人はツァイスに向かって行った。


っとその前に。
「エステル、ここまでありがとう」
「え?」
きっとエステルは中央工房から遊撃士協会のツァイス支部に行くのだろう。たしかツァイス支部のキリカという人は武術面以外でもかなりの腕前だと聞いている。さすがに旅人というだけではごまかすのは難しいかもしれない。
別れるのならば中央工房、つまりここだろう。中央工房の玄関で立ち止まり、事情を説明する―――もちろん嘘だが。
「なかなか言い出せなかったんだけど、僕はもともとルーアンに向かう予定だったんだ。でもエステルはおっちょこちょいだし、心配でここまで来たけどもう大丈夫だね。」
「おっちょこちょいって…!たしかに否定は出来ないけど、もっと早くいって言ってほしかったなぁ…。」
遊撃士なのになんだかなぁ…と少し文句を言っていたが(まぁ彼女にも遊撃士なりのプライドがあるのだろう)、しかしさすがにこれ以上彼女と行動するのは危ない気がする。
「それじゃ」
「あ、うん。じゃ…」
すっと手を差し出され戸惑っていると、手を握られて半強制的に握手をするような形になった。…握手って、こういうものじゃない気がする。
「またどこかで!」
じゃあね〜と手を振るエステルを見送った。





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