「ここの鍾乳洞はそこまで強い魔獣の群れはいないけど、ボスがいるからね〜。刺激しないようにしなきゃ。」
前にエステル後ろをヨシュアという態勢で進んでいたが、エステルの説明は殆ど聞いていなかった。
(彼女がエステル・ブライトだったなんて…)
一瞬で殺そうと思えば殺せるだろう。それくらい彼女は無防備だった。でも、
(彼女のことが気になる…もっと知りたい)
どうして遊撃士になったのか、鍾乳洞で何をしていたのか、好きなものは?聞いてみたいがそれをぐっと抑えた。知りたい…でも彼女は殺さないといけない相手だ。
(こんなこと…初めてだな)
いつもはこんなことがあっても迷わず後ろから首を切っていただろう。しかし今は…
(彼女を殺すことが恐い…。彼女が動かなくなることが…恐い。)ぎゅっと握り締めていた手から血が出ていたのにも気がつかなかった。
「ヨシュア!ヨシュアってば!」
ぼんやりしていて気がつかなかったけれど目の前にエステルの顔があった。
「っ…!」
一瞬にして顔が熱を持ったことが分かった。
「…(どうしたんだろ)?えっと、ヨシュアってカルデアすい道から落ちたんだよね?」
「…あぁそうだけど」
「おっかしいなぁ…。カルデアすい道ってそんなに脆くなかった気がするんだけど」
地震もめったに起こる地域じゃないし、ここ と付け加えて話していたが、じゃあ何が原因なんだ…?そう思ったときだった。
ぐらっ
また地震か…!しかし今度のは自然の地震とは違うとはっかり確証がもてた。
「「魔獣の気配…!」」
どしん、という響きと共に、目の前に大きいもぐら(…のような魔獣)が現れた。
「こいつが移動していて地震のようなのが起きてたってわけね!」
「そして地盤が緩くなっていたのもこいつのせいだろう。」
作戦は特になし(By エステル)!相手が地面に潜る前にやつけないと戦闘が長引くだろう、急いで決着をつけないと…!
「みんな行くわよ!」
エステルの掛け声とともに一斉に攻撃を仕掛ける。
「せい、はっ!」
「えい!クレスト!」
作戦はない!と言っていたが、エステルは的確に相手の弱点をつき、全体をよく見ていた。アーツと技をバランスよく使っていて、敵に斬りかかっているヨシュアのフォローも忘れない。
(早く決着をつけたいけど…)
はたして自分の戦う様を見せていいものか悩んでいた。そうして見せてしまうことでエステルが自分を怪しむのではないか…、それが恐かった。そんなヨシュアをどう捉らえたのか分からないがエステルがヨシュアの横まで来た。
「ヨシュア、あたしがきめるわ!」
たんっと魔獣の傍に行き、構える。
「これで決める!桜花無双撃っ!とおああぁあ!」
その一撃で魔獣は倒れた。
「このもぐら…なんだったのかしら」
今だに気絶しているもぐらを珍しそうに…たしかにこれくらいの大きさになると珍しいが、うーんと悩みながら眺めていた。
「やっぱり王国軍に知らせるべきかなぁ…」
そんな悩んでいるエステルを見ながら、僕はもぐらの状態を思い出していた。あれはまるで結社で研究されている実験に似ていた。
(いやまさか…)
こんな悪趣味なことを実行に移すのは教授…かと思ったが、しかしこれになんの意味があるのか。
(ただの実験…か?)
そんなことを考えていたときだった。
ぐらっ
再び地震が起きた。ちょうどエステルが立っていたところは脆かったのか足場が崩れた。
「きゃ…!」
「エステル危ないっ!」
地底湖に落ちそうになったエステルを抱き、素早く足場が大丈夫なところまで行く。
「また地震…なのか?」
揺れが治まりあたりを見渡す。ふぅ…と一息つく。
「ヨシュア…あ、ありがと」
エステルが苦しそうに言った。いつのまにか、いや助けることだけを考えていたからかエステルをを込めて抱きしめていた。
「ごめん…くるしかった?」
そう聞くとふるふると首を振った。
「ヨシュアが名前、呼んでくれたからびっくりした…」
「…っ!」
かーっと自分の頬が朱くなるのが分かった。
「そ、それに誰かに助けてもらったのも初めてだった…」
いつもはあたしが助けたりする方だったからなぁ…と自分の遊撃士という立場上、今の状況に少し戸惑っているようだった。
「エステル…ごめん」
「え…?」
「さっき魔獣を倒すときためらったから、サポートしてくれていたエステルがとどめをささなくちゃいけなくなったじゃないか。だから――」
しどろもどろになりながらもなんとか伝えようとする。そんなヨシュアを見てあははっとエステルは笑った。
「そんな気にすることじゃないってば!やっぱり魔獣を倒すのは躊躇うしね…。」
魔獣だけが悪いってわけじゃないし?と言いながら出口に向かうエステルに聞こえないように呟いた。
「そんな理由じゃない。ただ僕は君に怪しまれたくなくて…、自分のためにとどめをさせなかったんだ…。」
出口近くで呼ぶエステルに答えながら、自分の感情に少なからず戸惑いながら、ヨシュアは出口に向かって行った。
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