『エステル・ブライト。
若干16歳で準遊撃士になり、リベール各地を周り正式に遊撃士となった。様々な事件を解決し、その人柄からかファンも多い――。』
リベール王国に入り情報収集のつもりで買ったリベールの新聞に期待の若手遊撃士、ということでエステル・ブライトが載せられていた。
(あのカシウス・ブライトの娘だと言っていたけれど…)
新聞を読むかぎり親の七光り的な部分は感じられなかった。むしろ彼女、エステル自身の人柄が評価されているようにも感じられた。いま、若手の遊撃士の中でも一番期待されているようにも感じられた。
(エステル…ってどんな人なんだろう)
ふとそんな興味すら湧いてきた。やはり強くてで頭のキレる人なのか。ファンもいるくらいだから相当の美人かもしれない。遊撃士、という職業の人には会ったことがないので分からないが、ここまで期待されているのだから相当腕のたつ人物なのだろう。
「まぁ関係ないか…」
いろいろ考えてみたが、どうせ殺すのだ。すぐにその考えを消した。

エステル・ブライトはルーアン市からツァイス市に向かった――。その情報を手に入れてからカルデアすい道を進んでいたときだった。

ぐらぐらっ

急に揺れたかと思うとすい道内の明かりが全て消えた。
「地震…?」
それにしては様子が変だ。地震にしては急だったし、何より
「魔獣の気配…か?」
じわじわと、しかし確実に近づく気配に警戒していたときだった。
「うわっ…!」
足元の地面が陥没し、暗闇に落ちていった。

「っ…?ここは…?」
気がつくと辺りはカルデアすい道とは全く違う風景が広がっていた。
「そういえばカルデアすい道の奥に鍾乳洞があった…はず」
腰につけていたバッグから地図を出してみる。あのあたりの地面が脆かったとは思えなかったが…
「何かあったのか…?」
急に起きた地震と魔獣の気配…。なにか関係があるのでは、そう思ったときだった。
「人の気配…?」
民間人という可能性もあったがこの気配からして民間人ではないだろう。足音からして女性…か。近くの自分の武器を掴み、敵と判断したらいつでも動けるように態勢を整える。
(来る…)
「あっ!起きたんだ〜!よかった!」
「…は?」
まさか第一声に自分を気遣ってくるとは思わなかったので自分でも変な声が出た…と思う。
目の前に歩いてきた女性…いや少女は、たしかに民間人ではなかった。装備も整ったものをしていたし、なによりも持っていた武器がそれを物語っていた。そして、栗色の長い髪と朱い澄んだ瞳に一瞬見とれてしまった。

目の前の少女は(そんな風には見えないが)かなりの腕の立つ人間だということがわかった。
「鍾乳洞を探索してたらすごい音がしたから来てみたら…。」
(僕が倒れていたわけで…)
「擦り傷ができてたから薬をぬって、手当はしてたけど」
さっきは情報整理で気がつかなかったけど、たしかに体のあちこちに手当のあとがあった。
「ねっ」
(…?)
「喋らないの?」
たしかにさっきから彼女が一方的に喋りかけていたが、自分が喋らないのを心配してくれたのか…。そういえば結社の人間以外と喋るのは久々だったし、彼女の声はなんとなく…落ち着くから喋らなかったのだが。
「あぁ…ごめん、考え事してた」
「ふーん?じゃあまぁ鍾乳洞から出よっか!いつまでも長居はしたくないし。」
すっくと立ち上がりてきぱきと準備を整える。…彼女は何者なのか、知りたい。気がついたら質問をしていた。
「君は…何者なんだ?」
「何者って…なんかおもしろい言い方するわね〜!じゃあお互い自己紹介しますかっ!じゃああなたからどーぞ。」
なぜかこっちから自己紹介することになったが…まぁいいか。
「僕はヨシュア、ヨシュア・アストレイ。帝国の人間で今は旅の途中…というか人探しの途中なんだ。」
本当のことを言ってしまったが大丈夫だろう。なんだか彼女は嘘を見破るのがうまそうだし。
「じゃああたしね!あたしはエステル!エステル・ブライト!まだまだ新米だけど遊撃士をしているわ!よろしくね。」
すっと差し出された手を呆然と見つめながら、この時ばかりは写真を見ておくべきだったと後悔した。


もう彼女を血で染め上げるなんて、できない。





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