切って切って白い骨が見えるまで。
流してほしい、血で全てを。


――今回の標的が、僕の全てを変えた。

「ヨシュア、今回の標的だ。」
手渡された書類を受け取り、一番上に置いてあった写真を伏せる。最近になって標的が夢に出てくるようになったからだった。間違えないように顔を覚えていたからだろうか、夢に見るようになるなんて。
(教授に言えばなんとかしてくれるだろうけど)
教授にはあまり頼みたくなかった。今の自分に作り替えたのは教授ということもあるが、今でも教授が好きにはなれなかった。
ぱらぱらと書類を見ていくと、今回の標的が女性…いや自分と同じ年だから女の子であることと、若いがいい腕の遊撃士であることがわかった。
「今回の標的は、あのカシウス・ブライトの娘だからな。かなりの腕前らしいが、お前だったら大丈夫だろう。」
そういって男は笑って部屋を出ていった。
(カシウス・ブライトの娘、か…)
気がつくと、書類に書いてあったエステル・ブライトという名前を何度もなぞっていた。


いつものように装備を調えていく。素早く動けて相手を楽にする――。組織の中には苦しませて殺すのが好きな人もいるが、自分はそれがいやだった。
(僕みたいに生きて、苦しませるのは)
――いつだったかどこかの街で命があることが素晴らしい、生きていることが素晴らしい、なんてことを声高に話している人がいたけれど、そんなのは本当の地獄をしらないからだろう、と内心毒づいていた。戦争で家族を失い、心を殺して人を殺す。一体いつまで殺せばいいのか分からずにずるずると生き続けている自分に笑ってしまう。
死のうと思い、手首を切ったが流れ出す血をただ眺め、ああ自分は生きていると実感して死ぬまで至らない。
流れ出す血をそっと舐めると鉄の味が口に広がり、ああまだ自分はヒトなんだと安心できた。いつかこの血が血ではなくなったときには、自分は――
「ヨシュア、まだいたのか?」
気がつくと部屋の入口にレーヴェが立っていた。
執行者2 剣帝レオンハルト。実際死ぬまでいかなかったのかレーヴェが気がつき止めてくれたからなのだが、レーヴェはよく気にかけてくれている。
「少し考え事をしてただけ。もう行くよ。」
何を考えていたのか分からないように顔を見せなかったけれどきっとレーヴェのことだから気がついているだろう。しかし何もいわない。それが当たり前になっていた。
「……気をつけろよ」
すれ違いざまに聞こえた声は昔のレーヴェのように聞こえた。

「エステル・ブライトは、強いぞ。」
一人部屋に残ったレーヴェが何を言い、何を考えていたかなんて知りもしなかった。








水面下で微笑む君を殺す。







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