ルーアンでの事件も何とか解決し、ヨシュアとエステルは宿屋に一泊することとなった。
ホテルのご好意というか、いいのか?

「こんないい部屋に泊まらせてもらってさぁ〜」
装備をはずして、バフンとベットに横たわるエステルを横目で見ながら、ヨシュアはかすかに疲れた表情をしながらもかすかに笑っていた。
「いいんじゃない?折角のご好意なんだから」
罰はあたらないよ、そういって向かい側のベットに腰を下ろす。
いろいろあったなぁ・・・。
まさかあのルーアンの市長が犯人だったなんて考えもしなかった。
「人って見かけによらないのね〜」
ごろごろしながらヨシュアに話し掛けたが、ヨシュアの反応がなかったため、ヨシュアのほうを向いた。
「・・・ヨシュア?」
様子がおかしい。目の前に手をかざしてみても反応がない。
「もしも〜し?」
無視かい!
あんまりにも反応がないので冗談半分で押し倒してみる。冗談で。

「えいっ!」
「え、エステル?!」
やっと反応したよ・・・、と少し安心した。
さっきのヨシュア、ネジの切れた人形みたいだった・・・。
さすがにそんなこと本人にはいえないけど。
「も〜無視しないでよっ!!!」
近くにあった枕でバフバフたたく。
「いたいって!ごめんごめん、考え事してて。」
う〜、だからって。
「ごめんってば!
・・・で、何で僕を押し倒そうとすることになったの?」
さすがに今の状況はいろいろと問題が多い。いろいろと。
「ん〜・・・。おもしろそうだから?」
そういうと、ヨシュアはなにそれ、と笑い始めた。ちょっ・・・!笑ってますよこの人!
人が折角心配してたのに。
確かにおもしろそうだから、というのは変な理由かもしれないけれど、
でも、今日のヨシュアは。
「ちょっと変だったよ・・・?」
その声にハッとしたのか、ヨシュアが笑うのをやめた。
「いつもと違うって言うか、なんていうんだろ」
うちに来た頃みたいに、冷めてたっていうか。言葉にならずにしどろもどろしている私の手に手をおいて、
「そうだった・・・?」
僕は、変だった?
声にならない声が聞こえてきてビクッとする。
「僕は」

「もしも・・・・・・毛ほどでも傷付けてみろ・・・・・ありとあらゆる方法を使ってあんたを八つ裂きにしてやる。」
あの時、エステルに銃を向けた市長を見たときにスイッチが入ったのは分かった。
ちがう、自分で入れたんだ。
あのままじゃ、エステルが。
殺す・・・?誰を。
エステルを、こいつが?
こういうとき、自分が怖くなる。
そういうときの自分はすごく冷静だ。物事を客観的にしか見れなくなる。
結社で学んだわけでもなく、自分がもともと持っていたものかもしれない。
後は簡単だ。スイッチを入れればいい。
もしこいつがエステルを殺したら、いや、少しでも傷つけたら
許せない。そんなこと。
「ッ・・・!」

殺して

「ダメッ!」
バフ!と枕が顔面にあたった。
というかあてられた。
バフバフバフバフバフバフ!!!!!!!!
何回も何回もたたかれる。さっきより容赦がない。というか、少し髪をひっぱっている。
痛い。
「なっ・・・!ちょっとエステル!」
とめようとしても、よく考えたら押し倒されていたんだった。
こうなったら
枕を持っている手、特に右手のほうを狙って枕と一緒に振り下ろされたとたんにパシリ、と手を止め、後は自分とは逆の立場にエステルを持っていく。
つまり、僕がエステルを
「押し倒す、と。」
出来事の速さにポカ−ンとしているエステルに、「大丈夫?」と声をかける。
大丈夫なわけないと分かっているけれど。
「もしも〜し・・・?」
もしかして怒ったかな・・・、と少し心配になったが、すぐにキッとにらまれて今度はほっぺたをつままれる始末。
「ひ、ひひゃい(い、痛い)」
冗談だからそこまでは痛くないのだが、周りから見たら何してるんだこの人達、って絵だろうなぁ・・・。

「私はそんなに頼りにならないのっ?!」
ギュウギュウとヨシュアのほっぺたをつまみながら、半分べそをかきながら。
「あんな顔しないでよ。私のせいであんな顔・・・」
涙が流れていく。
知るもんか、今は涙がどうとか言ってられない。
「あんなヨシュアの顔、見たくないよ。
笑ってる顔とか、困ってる顔とか、あきれてる顔とか、照れてる顔とか!
私はそういうヨシュアの顔が好きなの!」
あんな冷たい表情。
私のせいですか。私が弱いせいですか?
悔しい。涙があふれてくる。
守る立場なのに、守られてる自分がいる。
自分は何なのだ、何のためにここまで頑張ってきたんだ。
そう思うと涙が止まらなかった。

ギュウギュウつまんでいた手も、エステルが泣くたびに力が弱くなって、最後にはエステルの涙を力いっぱいゴシゴシ拭いていた。
「エステル、そんなに力強く拭いたら」
後から痛くなるよ?と手をそっと顔から離してあげる。
それでもとめどなくあふれる涙に、仕方ない、とすっと自分の手で優しくふき取る。
まだう〜う〜唸っているけれどもう大丈夫だろう。
「ごめん、そんなつもり・・・」
全くなかったとは言い切れなかった。
実際遊撃士になったのも、いつもエステルを守るためだったし。
そこは譲れない所でもあった。
「エステル、どうしたらいい?」
どうしたら、僕に君を守らせて貰えますか?
昔からそうだった。彼女は(父さんからの遺伝かは知らないけど)、いつも僕とおんなじところに立とうとした。
決して守られる、という事をしなかった。
自分の面倒くらい自分で、というのが彼女の考えなのか、譲歩して譲歩して、一緒に守りあうという所だった。
「守らせては」
くれないの?

「それはダメ。」
守られることが、それだけは。
あの時、お母さんが死んだ時、自分は守られた。あの時は
「仕方なかったって、自分でもわかってる・・・」
だから、次からはそうじゃなくて、自分が守ってあげたい。
自分の大切な人を。
だから、
「お互いに守りあおうって」
決めたじゃない。・・・それではダメなの?
ゴシゴシと目をこする。心配かけちゃだめなのに。
涙は止まらなかった。

ぱし、とエステルの手を止めた。
「だから、こすっちゃダメだってば・・・」
くすり、と笑いあったあと、少ししてから思い出した。
そういえば、僕エステルを
「押し倒してるね・・・」
クスクスとエステルが笑い始めた。初めは自分が押し倒してきたくせに。
「初めは君が押し倒したんだろ?ああいうことを女性がしてはいけないとおもうけど?」
ついトゲトゲしく返してしまう。
「む〜・・・、ごめん。」
素直だね、とちょっと驚く。もっと言い返してくるかと思ったけど。
「何か言い返すことはないの?」
ここまで素直だと何だかいじわるしたくなる。すっと、顔を近づけて微笑みかける。
「む。・・・ん〜じゃあ、もう私のせいであんなこといわないって」
約束して。
声には出さないけどそういっている。
それは・・・
「無理とか言わないでね。」
・・・・・・・・ふぅ。
「分かった。君を守る時は絶対あんなこといわないよ。」
その返事に満足そうに、にこーと笑った。
「よっし!じゃあ、お風呂入ろーう!!!」
そういうと、僕を押しのけて髪をほどいてすたすたとバスルームに向かっていった。
「・・・。」

でもね、エステル。
約束は守れそうにないよ。
もし、誰かが君を傷つけて、それを放っておくなんて僕には出来ない。
そんなの許せない。
約束を守って、君が傷つくのを見ているだけのそんな心を持つつもりはない。
「でもさっき・・・」
エステルが押し倒してきた時はビックリした。
何にも意識してなかったんだろうけど、今も実はドキドキしてる・・・。
「あんな心臓によくないことはしないで欲しいよ・・・。」
最後の最後でどっ、と疲れてしまったのは言うまでもない。

そのあと、そのまま眠ってしまったヨシュアは、お風呂から上ったエステルから再び押し倒され(乗りかかられた、とも言う)、再び心臓に負担がかかったとか。
「さすがにお風呂上りは反則だと思う」(ヨシュア談)






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