夢を見た。
とってもこわいゆめ。
ヨシュアがいなくなっちゃうの。
あんなの、わるいゆめだよね。
また、わたしのせいでだれかがいなくなっちゃうの?
夢だと思いたかった。
「どうして人はバラバラなんだろう。
一つだったら、大切な人が死んだ時、さみしくないのにね。」
突然、彼女からそんな言葉を聞いて、何よりもビックリした。
最近は彼女と一緒に寝ることが多くなっていたけど、それは父親であるカシウスがいないときだけだった。
そんな時の彼女はいつも以上におしゃべりで、
なんてことない、いつも通りのはなしかと思っていたら急にこんな話をし始める。
「急にどうしたの」
こんな時は本当に困る。どんな顔をしていいか、教えてもらったことないし。
彼女の扱い方は、今までの誰とも違ったから。
(大人だったらニコニコしてればいいけど)
彼女にはそれが通用しない。ニコニコしていてもすぐに嘘だってばれてしまう。
カーテンからチラチラ月明かりが入ってくるけれど、彼女の顔は見えない。
「ん〜、どうしたんだろ」
あはは、と笑っているけど嘘だとすぐわかる。
こんな無理している笑い声、聞きたくない。
でも彼女は喋り続ける。僕の思いなんて知りもしないで。
「大切な人と一緒に死ねたら、その後辛くないでしょ?寂しくないでしょ?
誰かの寂しい顔、見なくていいでしょ?
私じゃだめなんだよ。私がいても寂しい、って思わせちゃうでしょ?
どうしてかな、こんなこと」
本当は思ってないのに。
自分が死んだほうがいいなんて
さいていだ。
ヨシュアの視線を痛いほど感じる。
きっと頭がおかしいとか思われてるんだろうな。
でも、急に不安になる。
あの時私が、時計台に行かなければ、
お母さんはしななくてよかったんじゃないの?
心の中の誰かがそういっているようにも思えた。
「・・・ごめん!何言ってるんだろうね!!!」
あはは、という彼女の声が微妙に震えている。
そんな声、出さないで欲しい。
彼女は“ひかり”だ。僕の“太陽”だ。
いつも明るい彼女がそんな、こんな辛そうに。
一人じゃだめなんだよ?
「・・・一人だったら僕は君に会えてない。
一人じゃないから生きていける。
きっと、世界に人が一人しかいなかったら寂しい。」
きっと、僕は死んでしまう。
でも、君といるから。
本当は君のそばにいちゃいけないくらい汚れているけれど、
君といるから
生きていける。
だから、そんなこと言わないで。
さみしそうにしないで。
ここに自分の居場所がないようなこといわないで。
君がいない世界なんて、
君がいないところなんて
僕は、どこいけばいいの。
ヨシュアを見ると、すごく悲しそうな目をしていた。
こんな時のヨシュアはどうしようもないくらい見ていられない。
私のせいだ。
「ごめ・・・んっ」
ぎゅっと抱きしめる。昔、お母さんがしていてくれたように。
少し涙か出た。
ちょっとビックリしたのはいうまでもない。
っていうか、慰められてる?
慰めているつもりが、また心を読まれてしまったのだろうか。
というか、ちょっときつい。
本当に彼女は力加減ってものを知らない。
(普通の子だったら怒るよなぁ)
というくらいぎゅうぎゅうに締め付けられた。
息できない、息できないから!!
バシバシ背中をたたく反応があるまでヨシュアが息できなくて
辛かったなんて気がつきもしなかった。
「ご、ごめん。」
ぱっと手を離すと、まったく・・・と呆れ顔。
「エステルは本当に」
力加減ってものを知らないの、と言おうとした瞬間にばっと彼女が起き上がって
きらきらした目をこっちに向けた。
な、なに?
「いま!今、ヨシュア、私のことエステルって!!!」
・・・あぁ。
「っっ〜〜〜〜!やった!!!!」
なぜかガッツポーズ。なんで
「そこまで喜ぶの・・・」
すこしあきれてしまう。まぁ、いつもの調子に戻ってきたということだろうけど。
「ん〜。んふふ」
何かご機嫌だなぁ。なんか恥ずかしい。
「もう寝るよ?ったく・・・せっかく心配したのに。」
「なに〜ヨシュア?」
最後のほうは聞こえなかったみたいだけど、妙に彼女はご機嫌で、
どうせさっきの話も忘れちゃったんだろうけど。
「・・・元気になってよかった。」
それだけでいいや。
二人で手をつないで寝ることにした。
・・・本当は抱きしめて寝てみたかったけど。