私の名前はエステル。エステル・ブライト。生まれも育ちもロレントで、ただいま真剣に悩み中。
「やっぱり…いや。んーどうしよ。」
悩んでいるのは他でもない。ヨシュアのことだ。来た頃とは変わって来て、ヨシュアとは話しが出来るようになった。この家に来た頃は、目にも元気はなく、話しをしても私だけが一方的という感じがあったけれど、今はヨシュアからも話し掛けてくれるし、日曜学校の日は起こしてくれるようになった。でも、あまり外出しようとはしない。ほとんど自分の部屋で読書をしている。それで何とかヨシュアを外出させようと思うのだが…。
「どうしたらいいかなぁ…。」
…そういえば、この前父さんの誕生日だったっけ。プレゼント買ってない……。
「…ッッ!そっか!」
その手があった!ヨシュアと父さんのプレゼントを買いに行こう!そうと決まったら急いでヨシュアに言わなければ…。遠くでなくていい。
「ヨシュアッッ――!」
ばぁーんっと部屋のドアを勢いよく開けた。
「どうしたの?エステル。」
そういって、まるで私が来るのを分かっていたように、本を閉じたのがヨシュア、ヨシュア・ブライト。私の父さん、カシウス・ブライトが連れて来た男の子。
「あのね!実は買物に付き合ってほしいの!」
買物…?なんでまた。みたいな顔をしている。きっと私がまたストレガーの新作を欲しがっていると思ってるのだろう。むっ…。
「で、エステルは何が欲しいの?」
ヨシュアは予想どうりの質問をため息まじりに聞いて来た。
「私のじゃないもん。」
そういうと意外そうな顔をされた。ヨシュアは私をなんだと思っているのだろう…。失礼過ぎる…。しかし、そういってむくれていても先に進まない。私は回りに誰もいないのを確認して、そっとヨシュアにささやいた。
「実はね、今度父さんが帰ってくるでしょ?それでね、何か父さんにプレゼントを買おうかと思うの!」
ヨシュアの顔が一瞬ビックリして顔が赤くなったような気がしたが、すぐに元に戻って、なるほど、という顔になった。しかし、何かに引っ掛かったような難しい顔をした。
「僕が選ぶより、エステルが選んだ方が父さんはよろこぶよ。」
…ん?あぁそっか。私は父さんのプレゼントを買いに行くんだったっけ…。それから、ヨシュアの言った言葉に引っ掛かった。別にヨシュア一人に悩めなんて言ってない。せっかく二人いるのに!
「別にヨシュアだけに選べなんて言ってないでしょ!二人で選ぶの!二人でって所が大切なの!」
そこまで言うと、ヨシュアも仕方がないと思ったのか、机の上に本を置いて、一緒にプレゼントを買いに行ってくれる気になってくれたみたいだった。
買物にロレントに行くか、それともにボースに行くか。すごく悩んだけど、結局ロレントで買物をすることにした。決めては特になかったけど、ボース行く為には徒歩か定期船を使うしかない。徒歩でも行けなくはないけれど、さすがに子どもだけで街道にでるのは魔獣も出るし、危険だと思った。こういうときはきっちりしなくては。ボースあたりの魔獣はロレントより強いだろうし。ヨシュアは
「大丈夫。僕がなんとかする。」
と言ってくれだが、何かあったらどうしていいか分からない。絶対ダメだと言って、しぶしぶ納得してくれた。残るは定期船だが、定期船にお金を使うくらいだったら、その分をプレゼントにまわしていいものを買った方がいいとヨシュアが言ってくれた。うん、確かに!
「それでエステル。父さんのプレゼントってどんな物を買うとか決めているのかい?」
ヨシュアに言われて、全く考えてなかったことを思い出した。プレゼントを買うと決めたのがさっきなのに、どんなものを買うかなんて決まっている訳がない。ヨシュアと出掛けることばかり考えていたからか、実のところ全く考えてなかった。しまったなぁ…と思い、ヨシュアを見ると、何か考えているようだった。なぜか顔も赤い。熱でもあるのだろうか…。
「ヨシュア…どうしたの?顔真っ赤だよ?」
顔を近づけて顔をよく見ようとしたら、前髪で隠された上に、ヨシュアは後ろに下がってしまった。むむむ…なんで〜?
「な、なんでもない。…っと、まずリノンさんの所に寄ってみようか!」
ヨシュアは目線をそらしたまま、話しを進めた。むー。…まぁしょうがないか。
「…そうだね!」
そういってお店に入った。リノン雑貨店。ロレントに住む人は大抵の生活品をここで取り揃える。
「いらっしゃい!ってエステルじゃないか。今日は何を買うんだ?」
と言うこの人はこのお店の次期店長(もう店長かも…)のリノンさん。
「おはよー!リノンさん!今日はね、父さんにプレゼントを買いに来たの。」
「そっかー。まぁゆっくり見ていってよ。」
そういうとリノンさんはまたお店の棚の整理をし始めた。いろいろ棚を見ていくと、ひとつ気になる物があった。
「写真立て…。」
そういえば、この前始めて私とヨシュアと父さんで撮った写真が出来たっけ…。私と父さんは写真立てに入れたけど、ヨシュアは…?
「リノンさん、あの…。」
私は躊躇いがちに写真立てを手にしていた。
そういえばヨシュアはどこに行ったのだろう。まさかプレゼントに私一人で悩んでいたから、帰ってしまったのだろうか。リノンさんのお店を出ると、ヨシュアが入口の所にいた。考え事をしているのか、私が目の前にいるのに反応してくれない。
「…ねぇ。……ヨシュアってば!」
「…え?」
気がついたのかやっと私を見た。店に入ってこないからてっきり帰ったかと心配したのに!むー。…でもさっきまでのヨシュアの表情は…、すごく悲しかった。寂しそうな顔をしていた。私はまだ全然頼りにされてないんだ…。そう思うと、悔しいか、情けないのか分からない感情が込み上げて来た。私じゃ頼りにならないのかな。力になれないのかな…?泣きそうになったけど我慢した。
「次のお店にいくわよッッ!」
そういってヨシュアの腕を引っ張ると、次のお店に向かった。もう、いなくならないように、強く腕を掴んだ。
「結局いいのなかったね…。」
「…うん。」
ヨシュアの言葉に弱く頷く。あれからロレントのお店というお店に行ってみたが、これといったプレゼントは見つからなかった。せっかくヨシュアも頑張って探してくれたのに…!
「どうしよう…。父さん帰ってきちゃう。」
何だか今日は空回りばかりしている気がする。ヨシュアも手伝ってくれたのに…。父さんにも久々に会えるというのに。そう思って落ち込んでいると、ヨシュアが話しをし始めた。
「…ねぇ、エステル。何もプレゼントを買って、あげるだけが大切じゃないと思うんだ。」
それだけの言葉なのに、すごくヨシュアの気持ちが込められていた。そうだ…そうだよね。じゃあ、ここでのんびりしている暇はない。私は立ち上がって、ヨシュアに手をさしのべた。
「ねぇヨシュア!今からオムレツ作るから手伝って!」
「…うん!あ、じゃあリノンさんの所に行って材料買わないと!」
そういってヨシュアは私の手を握ってくれた。心なしかヨシュアは嬉しそうに見える。そしてヨシュアと二人で走ってリノンさんのお店に行った。
この後二人でオムレツを作ったけど、オムレツに関しては全て私にまかせてくれた。…それ以外はヨシュアが頑張ってくれた。帰って来た父さんはいつもより豪華な食事だったのに驚いていた。さらにそのあとにシェラ姉が来て、父さんが帰ってくるのをギルドで聞き付けたのか、ケーキ(と大量のお酒)を買ってきてくれた。
…まぁそのあとに、ひとつ話があるけど、それはまた今度!