僕の名前はヨシュア。ヨシュア・ブライト。もともとはブライト家の人間ではなかったけれど、養子という形でこの家に住んでいる。
「ヨシュア――ッッ!」
ばた――ん!と部屋のドアが勢いよく開いた。今、僕の部屋に急に(さらに勝手に)入ってきた女の子はエステル。エステル・ブライト。この家の主、カシウス・ブライトの娘であり、…かなりのおてんば。おてんばっていうと怒るけど。
「どうしたの?エステル。」
僕は読みかけの本のページにしおりを挟んでエステルの方を向く。
「あのね!実は買物に付き合ってほしいの!」
買物…?エステルが買物なんて、まさかまたストレガー社の新作が出たのだろうか。先月新作を買ったばかりだというのに…。
「で、エステルは何が欲しいの?」
僕がため息をついて聞くと、エステルは私じゃないもんと少しむくれてから回りを見渡して、そっと僕にささやいた。
「実はね、今度父さんが帰ってくるでしょ?それでね、何か父さんにプレゼントを買おうかと思うの!」
内緒話のつもりだったのかもしれないが、この家には僕とエステルしかいない。内緒話をする必要性は感じられなかったけれど、少し嬉しくて、少しドキドキした。それにしてもカシウス・ブライトにプレゼント…かぁ。たしかこの前の彼の誕生日のパーティーは仕事が入ってとりやめになったっけ。開催者のエステルは「しかないねー」と笑っていたけど、父親は電話口ですまないすまないと大騒ぎしていたのを覚えている。(エステルは騒がないの!と父親に注意していた)確か予定では明日の夜くらいに帰ってくるはずだった気がする。なるほど確かにいい考えだが、一緒に行く理由がないんじゃないかなぁ…。
「僕が選ぶより、エステルが選んだ方が父さんはよろこぶよ。」
そうエステルに言うと、エステルはきょとんとして何言ってるの?と言った。
「別にヨシュアだけに選べなんて言ってないでしょ!二人で選ぶの!」
二人でって所が大切なの!と言われたので、そこまで言われたら仕方がない。僕は机の上に本を置いて、一緒にプレゼントを買いに行くことにした。
買物にロレントに行くか、それともにボースに行くか。エステルは悩んでいたが、結局ロレントになった。決めては特になかっただろうが、ボース行く為には徒歩か定期船を使うしかない。徒歩でも行けなくはないが、エステルが魔獣がでるのに子どもだけでは危険だと言った。こういうときだけはきっちりしている。ボースあたりの魔獣だったらエステルに分からず、僕がなんとかできるのだが、やはり危ないからダメと聞かなかった。残るは定期船だが、定期船にお金を使うくらいだったら、その分をプレゼントにまわしていいものを買った方がいいということになった。
「それでエステル。父さんのプレゼントってどんな物を買うとか決めているのかい?」
そう聞くと、エステルはうーんと唸った。この様子じゃ、まだ決まっていないみたいだ。だから僕を呼んだのだろうけど。頼られているのかな…などと思うと、そんなことを考えている自分が恥ずかしくなった。
「ヨシュア…どうしたの?」
顔真っ赤だよ?と気遣ってくれるのは嬉しいんだけど、顔が近いッッ…!
「な、なんでもない。…っと、まずリノンさんの所に寄ってみようか!」
エステルはそうだねー!とお店に入っていった。
「…ふぅ。」
エステルはもう少し、人と人との距離を分かった方がいい。こんなことじゃ、いつかはお互いに兄妹なのにカップルみたいなことをしかねない。しかもエステル無自覚で。
「いつかエステルは僕の以外の人と結婚とか…考えるのかな。」
まぁそこら辺の男だったらカシウス・ブライトが許しはしないだろう。では自分だったらどうか。……微妙だ。
「もしそういう関係になったとしても…。」
ただえさえ不確かな記憶。こんな心が壊れた人間にはたしてエステルを…誰かを愛する資格なんてあるのだろうか。作られた心。そんな心で愛されてもエステルは喜ばないんじゃないだろうか。
「…ねぇ。……ヨシュアってば!」
「…え?」
気がつくとエステルが少し怒って立っていた。ずっと僕が店に入ってこないので心配してくれたらしいけど、どうやらプレゼントは決まらなかったらしい。
「次のお店にいくわよッッ!」
そういってエステルは僕の腕を引っ張ると、次のお店に向かった。僕が選ぶのを手伝わなかったのを怒っているのか、強く腕を掴んでいた。
「結局いいのなかったね…。」
「…うん。」
僕の言葉にエステルも力無く頷く。あれからロレントのお店というお店に行ってみたが、これといったプレゼントは見つからなかった。
「どうしよう…。父さん帰ってきちゃう。」
そういうとエステルは下を向いたまま何も言わなくなった。彼女は彼女なりに父親に感謝しているのだ。誕生日のプレゼントは毎日の感謝の印…のような物なのかも知れない。
「…ねぇ、エステル。何もプレゼントを買って、あげるだけが大切じゃないと思うんだ。」
そう。ハーメル村で暮らしていたころ、僕はプレゼントよりもみんなが僕に『おめでとう』と言ってくれることが嬉しかった。誰かが自分の誕生日を覚えていてくれて、そしてお祝いしてくれる――。それだけで充分だった。そんな僕の様子をみていたエステルは急に立ち上がり、ヨシュアに手をさしのべた。
「ねぇヨシュア!今からオムレツ作るから手伝って!」
「…うん!あ、じゃあリノンさんの所に行って材料買わないと!」
そういって僕はエステルの手を取って二人で走ってリノンさんのお店に行った。
この後二人でオムレツを作ったけど、オムレツに関しては全てエステルにまかせても大丈夫なので僕は特に何もしなかった。それでもいつもよりは豪華な食事だったので父さんは驚いていた。さらにそのあとにシェラさんが来て、父さんが帰ってくるのをギルドで聞き付けたのか、ケーキ(と大量のお酒)を買ってきてくれた。
…まぁそのあとに、ひとつ話があるけれども、それはまた今度。
↓おまけ☆
「ヨシュア…どうしたの?」
顔真っ赤だよ?と気遣ってくれるのは嬉しいんだけど、顔が近いッッ…!
「な、なんでもない。…っと、まずリノンさんの所に寄ってみようか!」
エステルはそうだねー!とお店に入っていった。…あぶなかった。もう少しで
もう少しでどうするんだヨシュア!!!もちろん没!
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